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第二章
自らの気づきを悔やみながら、目を覚ました。家の中。開いたままの窓から夜を告げる、梟の声と月光。冷えた空気。一人きり。和やかな昼下がりから反転した世界の様相に、ため息をつく。
ルーセルはもういない。七日前、昼食後の午睡をそのまま、永遠のものにしてしまった。
珍しく鼾をかいて、寝過ごしていた。普段との違いはそれだけ。仕事熱心な彼の失態が面白くて、私は放っておいた末、退屈に負けて彼の鼻をつまんだ。
起きないとは思っていなかった。呼びかけ揺さぶり、それでも無反応な彼に背筋が寒くなっても。村への近道を、サンザシの棘も構わず駆け下って人を呼んだのは、彼を起こしてもらうため。二度と目覚めないのだと確かめ、弔ってもらうためなどでは、決してなかった。
木陰でもベッドでもなく、柩に横たわるルーセル。信じられず、信じたくもない光景だった。だから言えなかった。「良い夢を」ではなく、「おやすみなさい」とは。
薄明りを頼りに、魚油のランプに火をともす。壁に留めてある古い羊皮紙が照らし出された。昔、神様の祝福を受けた島民の家系図だ。亡くなった印のない名前はたった一つ。ミラリア、私だ。
それを書き足した墓守、ルーセルの名は系譜にない。彼は大陸出身だ。私が小さい頃、家系図を辿って歴史を教えながら、話してくれた。
彼はライラ島の伝承を大学で聞き、心惹かれて移り住んで来たらしい。そして墓守だった私の両親と親しくなり、果ては二人の役目と子どもとを、引き取った。
彼に「子守歌」は聞こえない。それでも安らかにこと切れた。事故や病なら、恨む対象もある。彼の場合はそれすらない。埋葬に立ち会った誰もが、突然で残念だがいい最後だったと私の肩を叩き、ルーセルに「おやすみ」と声をかけた。
私もそうするべきなのだ。歴代の墓守と、私の両親と並んでこの地に埋葬された彼に、一方通行の挨拶を。島民でさえ忘れかけている伝統を愛した彼のことだ、特別感など味わいながら、きっと喜んで聞くのだろう。遅くなったって、許してくれる。
しかし私には言えない。
彼を葬った日は眠れなかった。夜が明け、昼になった頃、疲れて瞼が重くなり、夢を見た。夢の中で、失われたはずの日常を楽しんだ。レタルさんのお墓で草むしりを始めたルーセルに戸惑い、目覚めるまで。
あれから毎夜、ではなく毎昼、彼に会っている。彼が挨拶を促しているのか、私の未練が幻を見せるのか。どちらにせよ「おやすみ」と言わないうちは――彼の望みも叶わず、私が彼の死を認めきらずにいるうちは――会い続けられる気がして、言えないのだ。
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