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「けんちゃん!今日、夕方からまた激しく降るってよ!ちゃんと準備していきなさいよ!」
玄関で靴を履く俺の背中に、朝からエネルギーの無駄と言えるほど大きな母親の声が、ビシビシと飛んでくる。ただでさえ気温の高い夏の朝だというのに、ますます暑苦しく感じる。
ここからドアを2枚挟んだキッチンにいるはずなのに、相変わらずの信じられない声量だ。
「へいへい、わかってるわ。」
俺はため息と一緒に、自分の足元に向かって言葉を落とす。
「温暖化の影響かなんだか知らないけど、最近の夕立は尋常じゃないんだからね!危険を感じたら、まずは安全な場所に避難しなさいよ!」
「へいへい。」
「返事は!?」
「あーもう、さっきからずっと返事してるっつぅの!!行ってくんね!!」
「気をつけなさいよ!」
俺は、母親の言葉も一緒に封じ込めるかのように、後ろ手で玄関のドアを勢い良く閉めた。
何となく苛立つ気持ちを、自分の一漕ぎ一漕ぎにぶつけていく。怒りを擦り潰すように自転車のペダルを踏みつけていたら、学校へと向かう速度は思った以上に早まっていたらしい。普段より10分も早く到着してしまった。
まだ人気の少ない静かな校舎の昇降口で、上履きに履き替えながら、俺はふと気がついた。
「あ、やべ。傘忘れたわ…。」
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