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「ああもう、あと少しで家に着くってのに…。」
俺は憎しみを込めて視界の隅から隅まで暗い曇で覆われた空を睨み回し、唸った。
午後4時30分、まるで俺の下校時刻を見計らったかのように、予報通りの夕立が降り始めた。
こうなってしまっては、それなりの対策が必要だ。ひとまず避難をするしかない。
住宅街の一角にある、小さな緑地公園の簡素な東屋に俺は何とか逃げ込んだ。
背中合わせの形で置かれている2組のベンチの内、少しでも夕立を回避できそうな向きになっている方を選び、腰掛けた。大きく安堵の息を吐き出した俺は、スマホのアプリを起動し、今後の雲の動きを確認する。
「この夕立が通り過ぎるまで30分位か…?うわ、相当激しく降りそうだな…。しばらくここから動けねぇ…か。あー、早く帰りてぇ。」
パラパラパラ…
バラバラバラ……
ジャラジャラジャラジャラ……
空から落ちてくる粒があっという間に大きくなり、その勢いが増してくる。
木製の三角屋根には、上空から降り注ぐ粒が次から次へと当たり、俺の沈んだ気分とは真逆の軽快なリズムを刻む。
この状況では、どうせ傘があっても何の役にも立たなかっただろう。
「朝からあーだこーだ言われたけど、今ドキの夕立は、準備したって、無駄だっつぅの。」
忘れかけていた母親の言葉を掘り返し、ここぞとばかりに改めて毒付いてやった。
ちらりと横に目をやると、通学の相棒、俺の自転車は、後輪だけが外にはみ出していて、まさにこの夕立の直撃をくらっていた。
「うわ…最悪…。ここの屋根小さすぎだろ、聞いてねぇよ…。」
この酷い夕立と暑さの影響で、自転車は後ろ半分だけ、ベタベタに汚れるだろう。
「…はぁ。帰ったら乾かない内に洗っちまうか…面倒くせーけど。それにしても、本当に異常だよな。まさか夕立で、空から『雨』じゃなくて、『飴』が降ってくる時代になるなんてな。」
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