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「じゃあ、彼氏さんですか?素敵な彼氏さんですね。化粧品を買うのにわざわざついてきてくれるなんて!」
目を細めてまるで微笑ましい家族を見るように言われて首を振る。
「どうだ?終わったか?」
すると、柊が琴葉に近づいてくる。
「来ないで下さい!」
「うふふ~仲がいいですね」
柊に化粧をした顔面を見られるのが恥ずかしくて俯いたまま、そう言った。しかし美容部員の女性は笑いながら的外れなことを言う。
「いいから見せてみろ」
「いやです!!」
どうせ、笑われて終わるだけだ、そう思った。
「いいから、」そう言って無理やり琴葉の顎を掬うと熱のこもった目が合う。
「…っ…やめ、…」
一瞬、柊の綺麗な切れ長の目が大きく見開かれた。
それがどういう意味なのかわからずに泣きそうになった。見られたくない、見ないで。
「似合ってる」
「…え?」
「誰よりも綺麗だよ」
嘘とは思えなかった。それほど、柊の口から出た言葉には力があった。
「嘘だ…」
至近距離で見つめ合って羞恥心がないわけなどない。むしろそれで脳の全てが侵食される。
それなのに、柊は平然と言う。
「嘘じゃない。本当だ。ほかの男には見せたくないくらいに綺麗だ」
「…」
ようやく顎を掬っていた手を離すと一歩離れたところにいる美容部員の女性に柊が目をやる。
「これ、一式全部ください」
「わ、わかりました。えっと、そうですね、あの、リップだけどちらの色にするか決めていないので。せっかくだから旦那様に選んでもらいましょう」
女性の頬が何故か少し赤いのはこの場面を間近で見たからかもしれない。
「じゃあ、今つけているリップ、とりますね」
彼女はそういうとおそらくクレンジングだと思うがそれを含んだ上質なコットンで唇に乗る色を落としていく。
そして素早く悩んでいたというもう一色のリップを琴葉の唇にリップブラシを用いてのせていく。
先ほどの色とは見た目はそこまで違いがわからなかったが、唇に乗せると印象が大きく変わった。後者の方が圧倒的に妖艶に見えた。
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