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「ねぇ…空が暗くなってきてる」
「え…?」
少しだけ開けられる窓からみた空は
ここに入るまでの明るい色とは正反対の色に
変化を遂げていた。
「ホントだ…夕立が来るかもしれないな。」
「…帰らなきゃ。」
「え?」
「夕立が来る前に。わかばをお迎えに
行かなきゃならないのよ」
「そっか…」
小さな娘に傘を今日は持たせてはいない。
急いで家に戻って、幼稚園まで迎えに行かなくては。
薄暗い部屋の明かりをつけると
一気に現実に戻されたような感覚がある。
友梨はベッドから降りて
ソファにたたんでおいた下着を身に着け始めた。
優一はまだぼんやりと
ベッドに寝ている。
「俺、もう少し寝てから出るわ」
「うん。ごめんね、優一」
「いいよ。わかばちゃんを濡らすわけには
いかないもんな」
会ったこともない娘の名前を優一が口にするのは
違和感があったが、今はそれどころじゃない。
わかばは何より雷が苦手で、
雨と共に雷が鳴ったりしたら、
泣き出してしまう可能性もある。
とにかく急がなければ…!
「今度…いつ会える?」
「連絡するね。ごめん、もう行かなきゃ」
慌ただしく服を着込み、バッグを掴んで
友梨はホテルの部屋を飛び出した。
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