旅の妖精

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 南の島のヤンバルというふかい森に、妖精(ようせい)()んでいました。  妖精(ようせい)の大きさは、子犬(こいぬ)くらい。  ボサボサでごわごわのかみの毛で、腰に月桃(げっとう)の葉っぱの腰巻(こしま)きをまいただけの格好(かっこう)をしていました。  はだは赤土(あかつち)のような赤銅色(しゃくどういろ)で、ぎょろりとした大きな目をしています。  それは、キジムナーという妖精(ようせい)です。  ガジュマルという()っこがグネグネで、えだが太くて、これまたグニャグニャな()の妖精です。  キジムナーは島の森や海が大好きで、世界でいちばんすばらし場所は、このヤンバルの森のだと思っていました。  ある日のこと。  キジムナーがいつものように森を散歩(さんぽ)していると、ふしぎな生き物を見つけました。  大きさはすこし大きめのマツボックリくらい。  見たことのないへんなもようの着物(きもの)を着て、ヤンバルクイナにのっています。  ヤンバルクイナとは、ヤンバルの森に住むたいへんめずらしい、とべない鳥です。 「ぬーやが(なんだ)あり(あれ)……」  キジムナーは、木の上からヤンバルクイナに()っているふしぎな生き物をかんさつしていました。  ふしぎな生き物は、どうやら小人(こびと)のようです。  はじめて小人(こびと)を見たキジムナーは、見ているだけではがまんできなくなって、木の上からとびおりました。  すると、ヤンバルクイナはとつぜん木からおちてきたキジムナーにおどろいて、「クェー!」とさけぶと、いきおいよく走り出しました。  いきなり、ヤンバルクイナが走り出したので、小人はヤンバルクイナの背中から転げ落ちてしまい、そのままコロコロと転がって、石にぶつかると、気をうしなってしまいました。 「あいえな(ありゃあ)! でーじなとん(たいへんだ)!!」  キジムナーは、目を回している小人(こびと)をひろいあげると、急いでタナガーグムイ(テナガエビのふち)というきれいな(いずみ)に走りました。  タナガーグムイにつくと、キジムナーは近くに咲いていたハイビスカスの花をつんで、その花びらに(いずみ)の水をちょびっとだけすくって、小人(こびと)の顔にたらしました。  すると、小人(こびと)は「うひゃあ!」と声を上げてとび()きました。  小人(こびと)が目をさましたのを見て、キジムナーはホッとしました。 「はぁ〜、よかったさ〜。ごめんやぁ。おどろかせて」  目がさめたばかりの小人(こびと)は、キジムナーをキョトンとした顔でみていましたが、キジムナーがギザギザした()をみせて、にぃ〜っと笑うと、いきおいよくはね()きて、走り出しました。 「ぎゃあああ! ()べられる〜!!」 「()べんよ!」    キジムナーはにげ出した小人(こびと)をおいかけて、つかまえると、じぶんのてのひらにやさしく()せました。 「ほうんとうに()べない?」    おびえる小人(こびと)に、キジムナーは「()べん、()べん。やくそくさぁ」と言いました。  キジムナーは、やくそくはぜったいにやぶらない妖精(ようせい)です。
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