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隣の純喫茶
私が訪れた時はもうほぼ満員だった
といっても席数は多くないから
満員と言っても窮屈な感じはしない
店員の女たちは
声が明るくテキパキしていた
全体的に感じが良くて気に入った
入り口付近にいる女はなにやら
魂を抜かれたような顔をしていた
髪の毛は金色まで抜けていて
化粧をしていないようだった
服は伸びたグレーとホワイトの
ボーダーワンピースだった
足はヒールだった
昔女の子が好きだったようなテイストだ
センスが無いと思いながらも横を通った
その女の顔見たさにチラッと目をやると
ずっとずっと遠くを見つめているようだった
こんなに小さい店なのに
どこまで見えているんだろうね
一人席は埋まっていたんだが
全て男のお客だった
みんな決まったように
タバコを吹かしていた
お約束と言わんばかりだ
ほら、また一人端の男が
私が見ていて二本目のたばこに火をつけた
その横の男はふくよかで声は太くて大きい
いや、声も、というべきなのだろう
というのもその男の携帯が鳴り
電話に出たからわかったんだが
男の声は静かな店内に響いた
はい、という言葉が
へい、にしか聞こえなくて
私は心の中で笑った
はあ、はあ、と息が溢れていた
なにか独り言をぶつぶつ言っていた
なににしろどうでもいい
私の楽しみを邪魔せんでくれよ
そう男に向かって願った
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