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「茂森、早く!」
ドアの向こうでノックしている。
「帰るよ、あきちゃん。またね!」
いつものように、俺のほっぺたと唇にちゅっとする。毎回思うが、あいつの運動神経はどうなっているんだ?素早過ぎる……。親父がドアを開けると、茂森の姿はもうなかった。
「おかしいな、誰かいた気配がしたんだが」
「そうよね、わたしもそう思ったの」
「親父とお袋の勘違いだよ」
「早樹ちゃん、さっきの続きをしよっか。晶人、静かにな」
「そうね、勘違いよね」
お袋が天然で助かる、素直に信じている。にしても親父……デレデレして情けない。
「五人目だけは避けてよ?」
ドアが閉まるか閉まらないかのタイミングで言ってはみたが、ちゃんと聞こえたかな。もう一度寝ようと横になるが、なぜか寝付けない。この調子だと、初体験は早めに訪れるのかも─────。
※※※※※
よしっ、今日のお弁当も完璧だ!彩り、栄養面おっけー! 記念に写メでもとっておこう。茂森の分も作っておいた。運動部在籍の男子の食欲は計り知れないからな。
「おはよう、あきちゃん!」
「おはよう、茂森」
「尚にぃ、おはよ!」
「なおにぃ、おはよ!」
「おはよう、有希、圭人、春人」
「尚くん、おはよう……。ふぁあ、眠いなぁ」
「おはようございます、おじさん!」
今朝は家を出る時間が被ってしまった。お袋だけが一足早い出勤だ。春人は親父と手を繋ぎ、保育園へ。圭人は集団登校なので、途中で別れる。残ったのは俺と茂森だ。
「うー、なんかまだ信じられないや」
「茂森、はい、お弁当。今日も部活頑張れよ?」
「いいの?ありがとう、あきちゃん!」
なにが信じられないのだろう。お弁当を手渡すときに首を傾げ尋ねてみた。
「信じられないやって、なにがだよ?」
「あきちゃんと付き合いだしたこと。逃げずに隣を歩いていることだよ!」
まぁな、そうだな、茂森とばったり出会った瞬間、全力疾走してからな。すぐに追いつかれていたけれど。
「信じてよ。手でも繋ぐ?」
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