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あっ、と思った瞬間。
「……や……めっ」
生暖かい感触を感じた、それも唇に。
間違いない、コレは。
コレは、き……。
き───……!
「あきちゃん」
いま起こった現実がしんじられなくて。
だって、あの茂森から、き……。
―――キス。
なんでキスしたんだよ?
俺はお前が苦手なんだってば。
毎日言ってるだろ?
茂森の馬鹿馬鹿っ。
「あきちゃん、ごめん。もしかして初めてだった…とか?」
「はじ……初めてじゃ…ない!」
気遣う茂森を睨み付ける。
絶対に許せない、明日から無視だ、無視。
「あきちゃん、ごめんね?お願いだから泣かないで」
ファーストキスを、まさか。
まさか茂森に奪われるだなんて。
予想外だ。
思いもよらなかった。
俺だって男なんだ、彼女が出来た時にって、いろいろ考えていたんだぞ。キスをするのなら、ロマンチックなシチュエーションが必要だろ?それを茂森はぶち壊した。
「……お前、……ゆる…さ」
「ごめん、あきちゃん」
頭を掻き、困った様子で謝り続ける茂森を許せない。情けない話しだが半泣き状態で頭の中がぐちゃぐちゃだ。
整理なんてできないよ。
俺達の反対方向から派手なバイクの音が響き渡る。
そのまま通り過ぎてけばなにも思わなかった。なにも感じなかった。
けれどそのバイクは俺の家の前で止まったんだ。白いヘルメットを取り、顔を覗かせたのは。
……有希人?
今年受験生の有希人は週2回、塾に通っている。終わるのは21時半だ。
この時の俺は、“誰かに送ってもらった”、という発想がまったく思い浮かばなかった。
───圭人や春人を残して遊びに行ってたのか?俺は今までバイトに勤しんでいたと言うのに。
「あきちゃん、どうしたの?」
我慢がならない。
わずかな生活費から高い塾代を払っているというのに。
涙がすっかり止まった俺はバイクを運転していた男にヘルメットを渡す有希人の前へと出た。
「お兄ちゃん!?」
いつもは生意気なのに、この時ばかりは神妙な態度だ。俺は赤い目のまま「コレは一体どういう事なのか説明して」、はっきり伝える。
「あきにい、塾にはちゃんと行ったよ」
「あきちゃん、機嫌は治った?あれ、有希?こんばんは」
「そう目くじらを立てるなよ。木城はいつもおっかないね」
バイクの上に跨っていた人物は黒色のヘルメットを取った。え、金髪?だれだろう───?
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