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「木城、俺の顔を忘れちゃったの?」
「え……?」
「同じクラスだろ」
最初は薄暗くて、誰なのかわからなかった。月明かりに映し出された顔は────……。
同級生の甲坂だ。あいつの言葉を信じない訳ではないが、でも、と有希人の手を取る。
「甲坂、わざわざ送ってくれてありがとな。おやすみ」
「先輩、あ、ありがとうございました。おやすみなさい」
早く家の中へ入るよう、力強く引っ張った。
「おやすみ、有希」
甲坂はニッコリ笑顔を向ける。茂森も先輩である甲坂に挨拶はするものの若干引き気味だ。
茂森にも苦手なタイプがあるんだな。俺も苦手だよ、他の生徒とは顕らかに雰囲気が違うから。
「茂森もおやすみ。またな」
「はい、おやすみなさい。甲坂先輩」
───彼の名前は『甲坂大樹(こうさかたいき)』。派手な容姿、金髪、あの美貌、おまけに背も高い。モテるのに興味がないらしく、1人でフラフラと行動をする。
つるむのはよく似た感じの派手な奴らが多かった。
有希人に接する態度は優しいものの、周りの評判はあまり他人との関わり合いを持たないせいなのか『大人しい』ときくが凄むとかなり怖いらしい。今日、はじめて出会った神城さんとは違うタイプだよなぁ。
───神城さん……。
すごく格好よかった、大人の男性だった。一体、何歳なのだろう。
…………。
「兄ちゃん、俺は塾にはちゃんと行ったよ」
「甲坂にはあまり近づくな、お前には優しいかもしれないけど」
勝手に人の弟を『有希』と呼んいでたし、腹が立つ。家の玄関の中での会話は小さな声で語りだす。幼い春人や圭人には聞かせたくなかった。
「先輩は悪い人じゃないよ。今日だって、偶然出会っただけだ」
「有希人、あのな。兄ちゃんが言いたいのは……」
有希人は靴を脱ぎ「あきにぃの同級生なんでしょ?別にいいじゃん、俺が誰と喋ったって!」声を荒げ、そのまま二階へ続く階段を駆け登って行ってしまった。
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