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その日のデートは、茂森の応援だけで終わった。廉也さんは帰りの車の運転中でも無言だった。……気持ちはわかるよ。俺も同じだったから。茂森には、悪いことをした気分だった。
自宅が見えてくる。それでやっと、廉也さんから口を開いた。
「木城くん、今日はありがとう。
マドレーヌもね。夜にでも連絡をするよ」
「俺の方こそ、ありがとうございました。…連絡、待ってます」
両思いになったばかりなのに、なんで暗くなる?せめて車を降りる間だけでも、笑顔で別れたい。
「廉也さん。次のオフはテーマパークか動物園か、どこか楽しい場所に行きましょう!」
「うん、そうだね。ちょっと待って」
運転席から身を乗り出した廉也さんから、お別れのキス。唇に、2回軽く触れた。
「本当は名残り惜しいよ。またね、木城くん」
「は、は、は、はいっ」
うー、ダメだ。頭がぽわんとする。それから、イベントを盛り上げよう、と言う廉也さんも笑顔になる。さっきまでの暗い気持ちが吹き飛んだ。
「にいちゃん、おかえりー!」
「にぃたん、おかえりー!」
「あら、晶人?尚くんの応援は?」
「なんだ、負けたのか?」
「茂森のチームは勝ったよ。差し入れも渡せたし。来月の応援も、もちろんかけつける。今日は家でのんびりしようと思うんだ」
お袋と親父の隣を通り過ぎて、無邪気な圭人と春人の頭を撫でる。
「そうね、たまには晶人も1人の時間がほしいもんね。真人さん、圭人と春人を連れて、公園へ遊びに行くわよ!アスレチックもしましょ!」
「えー、今日は一日、ゴロゴロ…」
「お父さん、ぼく、キャッチボールがしたい!」
「おとーしゃん、したい!」
「あー、もう、わかったよ」
お袋と圭人、春人にこう言われては渋々、親父は頷くしかなかった。
「晶人、ゆっくり休んでね。帰りは商店街で食べ歩きしてくるから」
「ありがとう、お袋」
親父は上着を引っかけ、圭人はグローブと野球ボールを持ち、春人はお袋と手を繋ぐ。行ってらっしゃい、と見送った。
※※※※※※
月曜日の朝。
ソワソワする。
昨日の今日だ。茂森と話せるかな?
いつもなら『おはよ、あきちゃん!』、と俺に飛びついてくるのに。勝手なもんだが隣が寂しい。
あ、あれは?!俺の数メートルさきで歩く、欠伸をする茂森を見つけた!
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