92人が本棚に入れています
本棚に追加
「なにかあったんだね?」
なにも答えられないよ。あーあ、廉也さんにはすぐわかっちゃうんだ。だんまりする俺の耳には、心配した声が届く。
「なんでもないです。そろそろ切りますね。お仕事、お疲れさまでした!明日も頑張ってください」
「木城くん、あのね。もし変な気を回すなら、しなくてもいいよ。俺は、君や君の家族とも仲良くしていきたいんだ。……それに迷惑とか思っているなら、とっくに……」
とっくに?!
そうだった、廉也さんには俺がプチ家出をしたときから迷惑をかけていた。だったら尚さら…言えないよ。
「頑固だなぁ。電話で話せない内容なら、今から君の家に行く。駄目だっと言ってもね」
「そ、それは」
気が引ける。……廉也さんなら、すぐにでも我が家に来そうだ!観念をして、ポツリポツリ、詳細を語った。
「―――なるほどね。状況はわかった」
「これ以上、迷惑をかけれないよ。話しを聞いてくれて、ありがとうございました。充分です」
「お母さんが体力的にも精神的にも安定するよう、俺も協力するよ」
「そんな、あの。大丈夫、です!」
俺の方が動揺してしまう。
「木城くんには受験勉強を専念してもらいたい。1年早くなるけど、君が俺のマンションに引越しをする。幼い弟くんたちは、産後のお母さんの状態が落ち着くまで週末や夏休みは、こっちに泊まるといいよ。なんなら、家政婦さんを派遣しよう。俺もオフの日は手伝うから」
「それじゃあ、廉也さんに負担がかかりすぎるよ!」
おいしすぎる提案に、賛成などできない。ましてや即答なんて。
「なんでもかんでも1人で抱えて、解決しようとしないで。俺は……君の力になりたいんだ」
優しすぎる。……廉也さんは俺や、俺の家族のために一生懸命に考えてくれているんだ―――。
「もし家政婦さんを雇うなら、出世払いでその費用はお返しします。その……ありがとうござます。大学費用は、奨学金を借ります」
「気にしなくてもいいよ。1日でもはやくお父さんが正社員になるといいね。給料や待遇が段違いになるから」
「……は……い」
嬉しすぎて。廉也さんのあったかな気持ちが、嬉しい。いつしか、目頭に熱いものが込み上げていた。
最初のコメントを投稿しよう!