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秋らしい爽やかな、心地よい風が吹く。日中のあたたかな光りを感じ、俺と廉也さんがおとずれたのは黄葉スポットと呼ばれる、「明治神宮外苑いちょう並木」だった。
忙しい合間を縫っての、つまり。
本格的なデートだ!
黄金色のトンネルを抜け、並木道にあるベンチに腰かけた。
「廉也さん、イチョウの葉が綺麗ですね」
「そうだね。やっと、木城くんとデートができた。今日はゆっくり過ごしたい」
穏やかな空気がながれる。廉也さんと目があい、お互いクスッと笑った。ベンチの上では恋人繋ぎ。……ドキドキする。
「ご両親の件もうまくいきそうで、安心したよ。木城くんは、ブライダルフェアーが終わっても忙しくなりそうだ」
「忙しいのは慣れてるよ、大丈夫。廉也さんと彼方さんのおかげです。本当にありがとうございました」
「君の弟か、妹が産まれたらお祝いしよう」
「はぁ、ありがとう……ございます。ちょっと……恥ずかしいなぁ。歳が18も離れてるんで」
あれからお袋も交えての家族会議は、すんなりことが進んだ。お袋は感謝の言葉を繰り返す。親父も徐々にだが、よい方向へ改心しつつある。有紀人は、俺の代わりに料理を担当すると言い張るが…。圭人や春人も、お手伝いをがんばると宣言していた。家族全員、来年の赤ちゃんの誕生が楽しみでならない。
「廉也さん、イベントは大成功したいですね」
「うん。勉強と家事を兼ねてのレッスンは、つらくない?」
「あ、まぁ……。つらい、とかはないかなぁ」
「俺ね、木城さんにイベントの招待状を送ったんだ」
「彼方さん、来てくれるかな。意外と頑固だから」
「わからないけど、彼女さんと来てくれたら嬉しいな。ぜひ、新作のウェディングドレスを参考にしてみてほしいよ。ところで、茂森くんは元気?」
茂森―――。
ドキン。
廉也さんは、茂森のことも気にかけていた。
「正直、前みたいな気さくな関係に戻るには時間がかかるかな、と思います。あ、圭人が茂森に、来年は赤ちゃんが生まれるって話しをしちゃって。茂森からはおめでとうって。なにか手伝えることがあれば遠慮しないで、とは言われました」
「そっか。……茂森くんはいい子だね。君たちの関係は、時間が解決してくれるよ。他人事みたいなセリフで、ごめん」
廉也さんの言うとおりだ。アイツの良さに今ごろ気がついた。
俺は、ほんと大バカだ。
「茂森とはほとんど一緒にいたんで。近すぎて、ウザイヤツだとばっかり。……俺にできるのは、なるべく優さしく接して、試合の応援に駆けつけたい」
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