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リビングへ辿り着くとリュックサックを降ろした。
スナック菓子片手に漫画の本を読んでいる圭人に「ポテチを食べている暇があるなら、洗濯物を取り込んで!」つい怒鳴ってしまった……。
仕方ないじゃん、こっちは急いでいるんだからさ。
「はぁい、晶人兄ちゃん」
ひねくれた有希人よりもまだまだ素直で可愛い圭人は言われた通りに洗濯物を干してある庭先へと向かう。
有希人も小さい頃は素直で可愛いかったのになぁ、それが今では……。
おっと、懐かしい思い出に浸っている場合ではなかった。
エプロンをひっかけロールキャベツ(休みの日にタネを冷凍保存)、牛乳、ホワイトソース、バター、玉ねぎを取り出す。夕飯の献立は『ロールキャベツのクリーム煮込みとシーフードピラフ』だ。
シーフードピラフは材料をバターで炒め、隠し味にウスターソースを混ぜ炊飯器で焚くだけで簡単にできあがる。
(……完璧だ、美味しい)
スープの味つけを確認した。幼い頃から台所に立つ俺は、外で働くお袋よりも料理の腕前がプロ並みなのだ。
───そうだ、それと言うのも。
俺が家事をしたり、バイトに行くのも、家が貧乏なのも!
あの『ちゃらんぽらんくそ親父』のせいだ。
俺が小6の時に家を出て行った、親父のせいなんだ。
お袋はホント人間が出来ているよな、と感心する。
『お父さんを責めないであげて』だってさ。
俺達が親父の事を忘れかけた頃に家へ帰ってきて、そんでまた勝手に出てゆく親父を?責めないで、って?
金を残さず、子種だけ残して出て行った親父を?許せってか?
────今度もしアイツが家へ戻って来たのなら、有希人と2人でタッグを組んでプロレス技を掛けてやる。
俺達兄弟4人とも(不運にも)容姿は親父寄りなんだ、とくに俺と圭人が血が濃い。
「兄ちゃん、お鍋が吹いてるよ!」
「おっと、あちっ」
慌てて火を消した。
「兄ちゃん、バイトの時間!」
「もうこんな時間かよ!圭人、有希人が帰って来たらあとを頼む」
「うん、わかった!いってらしゃい、がんばって!」
慌てて制服から私服へと着替え、圭人にお見送りされた俺は心励まされ、スタジオのバイト先へと向かった。
なんとかギリギリセーフ。
間に合った。
胸を撫で下ろしてみれば、早速スタッフの人からお呼びの声が掛かる。
「木条くん、この機材を隣に運んでね」
「は、はい!」
夜の8時まで仕事はビッシリなのだ。
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