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バイト先は親父の弟、敏腕雑誌編集者の『木条彼方』さんに紹介してもらったんだ。
彼方さんは頭の回転が速くかなりのやり手で、おまけにルックスも完璧……あれはさぞかしモテるに違いない。
俺と彼方さんは生真面目な性格が似ているらしく、能天気なアホ親父は『晶人の反応はつまらんなぁ~フツー過ぎてつまらんわ』、と幼い頃にバカにされた記憶が強く残る。
「木条くん、少し休憩しようか?」
「は、はいっ」
我に返った俺は男性スタッフに愛想笑いなるものを浮かべた。ここのスタジオは結構格式が高く有名人が頻繁に利用している。
モデルの女の子と仲良くなれたらい~なぁ。
───下心。けど一番の魅力は『時給』が15だって事だ。
15だよ、15!
バイトを始めてまだ1ヶ弱だが、給料日が待ち遠しくて堪らない。
ほぼ毎日のようにバイトに入っているから──。ニマニマ笑う俺にサンドイッチと缶コーヒーのうれしい差し入れがあった。
わぉ、俺の好きなシーチキン味だ。時計を見ると7時前、そりゃ腹も減るか。ありがたく受け取った。
サンドイッチを頬張り、缶コーヒーを一口、二口と飲み干す俺に幻聴が聞こえはじめる。
「あきちゃん……あきちゃんってば!」
──うん?聞き覚えがある?
その嫌な幻聴はさらに声高々と
「あきちゃんってば!」
(……し、茂森?!)
そんな馬鹿な?
「あきちゃん、こんばんは。バイトお疲れさ……」
「ななな、なんでお前が!?」
『ここにいる?』と言わんばかりに、茂森のシャツの襟首を両手で掴んだ。
「あきちゃん、苦しいよ?彼方さんの紹介なんだ。よろしくっ、えへへ」
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