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「よろしくっ、じゃないだろ!」
───彼方さんの紹介だって?
なぜこんなヤツを?
紹介したんだよ?
わけわかんねぇ……。
「ちょっとちょっと木城くん、喧嘩は駄目だよ?」
「あ、す、すみません!」
スタッフの制止する声。茂森のシャツの襟首を掴んでいた手を離した。
「大人しい君が熱くなるなんて珍しいね。知り合い?」
「…………知り合いというか……」
なにも話したくない俺はムスッとした顔のまま黙んまりを決め込む。
語ることなどないからだ。
「はじめまして、隣近所に住む茂森尚です、よろしくお願いします。あきちゃんは俺が絡むと人格が変わるんですよね~、般若みたいっす」
───そこまでべらべらべらべらとまぁ……よく喋れるもんだ。無邪気な笑顔の茂森を横目で睨みつつ。
『人格が変わるんですよね~、般若みたいっす』。
当たってる!
これは当たってるぞ。
俺がお前の前で人格が変わるのは『超』のつくほど苦手だからだ。耳にタコができるほど言ってるよ。
……にしても。
『あきちゃん、またあとでねっ』は、このことだったのか。
いざこざを起こしたくはないので不機嫌な顔つきのまま茂森に背を向け座り込み、残りのコーヒーを飲み干そうと唇を近づけた。
「あきちゃん、すげーよ!モデルの人が入って来るみたいだよ!」
興奮状態の茂森の声。
バイトに入って1ヶ月弱だけど
、芸能人やモデルは何度か────。
………………。
時間が止まったような感覚がした。缶コーヒーを落としそうになった。
「神城廉也さんがスタジオ入りしまーす!』
神城廉也?
知らない、そんな人。
ガチャリ、と開いたドア。
そのドアの向こうから彼のマネージャーだと思われるスーツ姿の人物と一歩下がって、背の高い1人の男性が現れた。
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