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……それよりもこの手。
早く離せよ、と言わんばかりに振りほどこうとしてみた。
「……しげっ」
簡単に振りほどけないし、茂森の手が離れたかと思ったら。
「あきちゃん」
俺の背中に手を回され頭の中が真っ白となる。
なにが起こったのだろう?
一体なにが──?
落ち着け、気をしっかり持て。
耳朶に茂森の息がかかる。
ゾクッとした。
「なんの冗談か知らないけど離せよ」
「あきちゃん、細いな。ちゃんと食べてる?」
見た目と違って、抱きしめる力が強い。
「ちゃんと食べてるよ、大丈夫」
それよりも耳!
お願いだから息を吹き掛けるな。
「そういやあきちゃんさ、耳が弱かったよね?」
……え。
それから笑顔が消えた。
な、なんだよ。
なんなんだよ、コイツ。
いつものヘラヘラした様子じゃない。
ちょっとびっくりした。
茂森でも余裕のない顔するんだって。驚かすなよ。
「早く離せよ。でなきゃ大声を出すぞ?!」
「……きなんだ、あきちゃん」
……?
……き?
俺は『木』じゃないよ、人間だよ、ニ・ン・ゲ・ン!
「こらっ茂森、いい加減に―――」
「俺さ、あきちゃんが好きなんだ。はじめは憧れだったんだけど……違ったみたい。彼氏になりたい」
密着した身体から茂森の鼓動が伝わってくる。
なんて言った?
茂森はなんて……?
「あの~、茂森?冗談だよな?
俺は男だよ?男が男に、特別な感情を込めて好きだと言う台詞は変だよ?女の子に伝えるべきだ」
そうだ。
ここはビシッとバシッと釘をさしておかなきゃ。
この手を解け。
今なら白紙にできる。
俺と茂森は家が隣同士の幼なじみ、ただそれだけなんだよ、お前との接点は。
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