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「日向ぼっこする猫も親子……みたいだな」
冬にしては暖かいある日のことだ。
公園のベンチのひだまりで、香箱座りをしている毛の長い白猫が細い目をして口を三角に開けた。あくびをしたんだろう。
こん棒みたいに太いしっぽをトントン上下させているのを、そばにいる仔猫が目で追っている。そのうち仔猫は後ろ足で立ち上がり、ニャッと前足でお母さんのしっぽを挟もうとするも空振り。下手な拍手をするようにバタバタと前足を動かしながら尻餅をついた。
二匹はさっきからそんなことをずっと繰り返している。
いかにものどかな小春日和って感じのピースフルな光景だ。
ところで──。
「おじさん、誰ですか?」
ミツオは、自分の隣に座っている四十代後半くらいの無精髭の男をチラリと横目に見た。
くたびれたスーツを着ているからサラリーマンなのかな、とミツオは思う。
ただ、こんな平日の昼間に公園でのんきしている人間が、まともな会社員のはずはない。
リストラされたことを家族に言えずに時間を潰している哀れな中年? ハローワーク行っただけなのになんとなくやり切った気がして休憩ですか?
いろいろと思うところはあるけれど、やっぱり気になるのはこの中年がさっき吐いたセリフだ。
「猫も親子って何ですか。それじゃまるで俺たちも親子みたいじゃないですか」
「細かいねえ、少年」
「少年っていうほど子どもじゃないですけどね」
ミツオはもうすぐ十八歳になる。今は冬休み中で毎日ヒマしているが、四月には高校三年の受験生だ。
「知らないおじさんに親子扱いされるのはちょっと嫌だなあって。あと、他にもたくさんベンチがあるのに俺の隣に勝手に座られたのも気持ち悪いんですけど」
「君、坊主頭なのにやけに神経質なことを言うねえ」
「髪型は関係ないじゃないですか」
ミツオはむすっとして男を睨んだ。
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