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そんなある日のことである。
お城に旅芸人の一座が招かれることになった。
その一座は、諸国を公演して回っている途中で、ロレーユの住む国にも立ち寄ったのだ。
猛獣を使った演目や、超人的なアクロバットなどによって、瞬く間に評判となった。
その噂は王宮にまで届き、今度王の前で出し物をすることになったのである。
城の庭にテントが張られ、仮説のステージが作られた。
王を始め、正装に着飾った王族や、昇殿を許された貴族たちが、浮き立つような胸の高鳴りを抑えて、薄暗いテントの中に入っていく。
誰の目にも、これから始まる幻想と幻影の織り成す一大絵巻に、期待する色がありありと浮かんでいた。
だが、その状況でも、女たちの目はロレーユに注がれる。
彼をもはや恋愛対象として見なくなった女であっても、時折彼を見かけると、意味ありげな視線を投げかけてくる者がいる。
聴覚が働かないことにより、他の感覚が鋭くなっているロレーユは、彼女たちのザラザラとした舌で頰を舐めるような視線を、否が応でも感じざるをえなかった。
どこかに、女の視線の存在しない国はないだろうか。
何度繰り返したかわからない、ねっとりとしたやり切れなさを抱えて、彼は薄暗いテントの入り口をくぐった。
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