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「ロレーユ、ロレーユ、お前が欲しい。気高い山の頂に咲く純潔の百合よ。人を寄せ付けぬその峻厳な山裾を、俺は登ってみせるぞ。さあ、俺に手を伸ばせ。手を伸ばして、俺の秘密に触れろ。密林を掻き分け、溢れる泉の源へと辿り着け。そこには甘い蜜が流れているぞ。さあ、甘美なる誘惑に身を委ねよ。さあ、さあ」
言葉は違えど、悪魔は皆一様にそのようなことを言った。
そしてそれは、不思議なことにロレーユの頭の中に、確かな音声を持って響いてきたのである。
生まれて初めて聞こえた音が、唯一聞こえてくる音が、女の剥き出しの欲望であるという事実は、彼を大いに悩ませた。
女が彼に色目を使ったときには、悪魔はいつでも現れた。
ロレーユはいっそのこと、その場で唸り声を上げて女の関心を消し去ってしまいたかった。
だが、人前で声を出すことは、王家の者として固く禁じられていた。
王子は常に威厳を保ち、にこやかに微笑んでいる必要がある。
父王より、幼い頃から、そう何度も繰り返し仰せつかってきたのだ。
もし、さもなくば、と父は厳しい表情で言った。
厳粛な父のこと、その先は幼い王子にも容易に想像がついた。
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