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十一夜
僕はばあちゃんの寝顔を見下ろしている。
ばあちゃんはゆっくりと目を開けた。
「昌弥。心は決まったかい?」
「もうとっくに決まってたよ。わがままいって少しだけいさせてもらったんだもの。ばあちゃんにだけ僕が見えてよかったよ。みんなはきっとまだ笑えないもん」
「ばあちゃんは幸せだったよ。たった十一夜だったけれど、昌弥のいた十一年をずっと思い起こしてた。なに、ばあちゃんもすぐ行くからね、寂しい思いはさせないよ」
「イヤだよばあちゃん、ばあちゃんが来たらうるさいもん。みんなとゆーーーっくり来るといいんだよ」
ばあちゃんは僕を力いっぱい引きよせて抱きしめた。
「ばあちゃん、楽しかったよ。僕はとんぼになったり栗の木になったりするよ。猫もいいし、時には雨になるかもね」
僕のからだはするりとほどけて形を保てなくなる。
「おやすみ昌弥」
ばあちゃんの声がはじめてふるえているのが微かに聞こえた。
「おやすみ、ばあちゃん」
【完】
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