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四夜
ばあちゃんの怖い話好きにはちょっと困っている。
ばあちゃんは僕もそんな話が好きだろうと信じて疑っていないが、決して得意ではないのに聞かされる身にもなってほしい。
「これは戦後十年ぐらい経った頃のことだよ。町内で、月のない晩に若くて髪の長い女の人のいる家にだけ出る幽霊の噂が聞こえてきたんだよ。ばあちゃんも長い黒髪の美人だったからね、そりゃあもうわくわくして待ってたんだよ」
ほら、やっぱりなんかおかしい。
「幽霊は、枕元に来てひとこと『髪か鏡か』って聞くんだそうだ。『鏡』って答えれば家にある鏡を割っていくだけだけど『髪』って答えたり、なにも言わなければ髪を切って持ち去ってしまうんだ」
「なんのために?」
「さてね。幽霊のすることにどれだけの意味があるかはわからないね。次の新月の真夜中のことだった」
いつになくばあちゃんは真剣な顔で、そっちの方が怖い。
「じいちゃんが酔っぱらって帰ってきた。そしてばあちゃんの布団で寝てしまったんだよ。気の毒に、じいちゃんはばあちゃんの身代わりになってしまった。じいちゃんの髪はそれから二度と生えることはなかったんだよ。あんなに怖い呪いをばあちゃんは知らないよ」
じいちゃん。
きっと怖いのは幽霊じゃなくばあちゃんじゃないかと感じてるよね。
薄々。
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