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九夜
ばあちゃんが傘を干している。
大きくて赤い古い傘。
「聞きたいかい、昌弥。この傘にまつわる話を」
「イヤだっていってもばあちゃんは話すよね?」
「うん。ばあちゃんがこの傘を手に入れてから三十年になるけど、この傘を持っている時は一度も雨に降られたことがないんだよ」
「うそだあ」
「うそじゃない。その証拠に見てごらん。まだ新品同然だ」
新品とはいかないけれど、確かによごれてはいない。
「ばあちゃんがスーパーに忘れても、バスの中に忘れても、公園に置いてきても必ず戻ってくるんだよ。ある時、ばあちゃんはちょっと気味が悪くなってゴミの日に捨てたことがあるんだよ。新しい傘も欲しくなったからね」
わからなくもないけど、ばあちゃんは傘を忘れすぎだと思う。
「ばあちゃんが新しく買った青い傘を持ってるんるん踊ってたらね、玄関のすみっこでこの赤い傘がバターーンってものすごい音を立てて倒れたんだよ。まるで人が倒れたような重い音だったよ」
さすがになんだか怖くなってきた。
ばあちゃんがひんやりした声で僕にいった。
「この傘、あげる」
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