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「……私は病気なんです。精神的な。たまに、居るはずのないものが今みたいに見えてしまうんです」
だから教師もやめて、行き場もなく彷徨って居る。
ようやく今日のことを白状した私に、先生はただ頷いた。
「こんな病気になって、もうどこにも行けないですよ」
苦笑して、私は握っていた携帯電話を眺めた。今頃は家族も友人も皆、私が変わりなく健やかに過ごしているのだろうと思っている筈だ。
精神的な病気になって行く場所もないなんて言えるはずもなく、一文なしになってから、未だに誰にも連絡をとっていない。
そんな、私に先生は静かに息を吐いた。
その深い呼吸音に、私はなんだか泣いてしまいなくなった。
「何処にでも、誰にでも、生きていける場所はある。それは、自分がよく分かっていることでしょう」
あの駱駝のお話はそういうお話でしょう、と続けて、先生はあの頃褒めてくれた時のように、私の頭を撫でてくれた。
アナウンスが流れて電車が、次の駅へと停車した。
私は駅名を見ようと車窓を見て、それからまだ降りなくて良いのかと、先生の方を見ようとした。
けれど、先生はもういなかった。
一息ついて、なんとなく、降りるのは次の駅にしよう思った。
電車は、あのキャラバンとは別の方向へと進んで行く。
それから、私は少しの間だけ、座席の背にもたれ掛かかることにした。
自分は、もうここに居た。
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