病状と駱駝

4/4
前へ
/4ページ
次へ
「……私は病気なんです。精神的な。たまに、居るはずのないものが今みたいに見えてしまうんです」  だから教師もやめて、行き場もなく彷徨って居る。  ようやく今日のことを白状した私に、先生はただ頷いた。 「こんな病気になって、もうどこにも行けないですよ」  苦笑して、私は握っていた携帯電話を眺めた。今頃は家族も友人も皆、私が変わりなく健やかに過ごしているのだろうと思っている筈だ。  精神的な病気になって行く場所もないなんて言えるはずもなく、一文なしになってから、未だに誰にも連絡をとっていない。  そんな、私に先生は静かに息を吐いた。  その深い呼吸音に、私はなんだか泣いてしまいなくなった。 「何処にでも、誰にでも、生きていける場所はある。それは、自分がよく分かっていることでしょう」  あの駱駝のお話はそういうお話でしょう、と続けて、先生はあの頃褒めてくれた時のように、私の頭を撫でてくれた。  アナウンスが流れて電車が、次の駅へと停車した。  私は駅名を見ようと車窓を見て、それからまだ降りなくて良いのかと、先生の方を見ようとした。  けれど、先生はもういなかった。  一息ついて、なんとなく、降りるのは次の駅にしよう思った。  電車は、あのキャラバンとは別の方向へと進んで行く。  それから、私は少しの間だけ、座席の背にもたれ掛かかることにした。  自分は、もうここに居た。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加