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「まぁ、そう言うこっちゃ! 瞬っ、美桜っ……ここは俺に任せて先に行け!」
「何を言い出すんだ、寛人らしくないぞ! それに寛人を置いて先になんて行ける訳ないだろ、僕も残ってコイツと戦う!」
口にしたものの、この危機を回避する大した作戦がある訳でも無かった。
疲労しきった身体に再度鞭を入れ、僕は拳を握り締めると体術二ノ構えを取り攻撃に備えた。
「相手はあんな長い槍を振り回しとんのや、何も持たん素手の瞬が易々と勝てるような相手とちゃうで。ここは剣士の俺が一対一でコイツと決着つけたるわ」
バットを握ったまま上腕に顔を擦り付け、汗でズリ落ちたメガネをクイッと持ち上げる。
しかし止めどなく流れる汗は、またしても寛人の視界を邪魔する。
薄ら笑みを苦笑いに変え右腕を離すと、寛人は流れる汗を拭い取った。
「いつから剣士になったんだよ! ってか寛人が持ってんの剣じゃないだろっ! いくらなんだって、こんなバケモノ相手に戦ったら死んでしまうよ……。じゃあ、一緒に逃げ――」
浮かべていた笑みを瞬時に強張らせ、ゴリアテの顔を睨みつけるように見上げた寛人は僕の言葉を遮った。
「あほ、俺は死ぬ為に戦ってるんやない、生きて人間になる為に戦ってるんや。言うたやろ? 運命なんてもんは存在せんのや……、生きるも死ぬも、活かすも殺すも全て己の選択次第やっ!」
いつになく真剣な寛人の瞳は闇のように深い、鬼気迫る強烈な威圧感に僕は何も言葉を返す事が出来ず、ゴクリと生唾を呑んで固まってしまった。
「わかったら早よせぇ! お前が美桜を守ったらなアカンのやろ、早よイカんかいボケッ!」
戦場ではほんの一瞬の隙が命取りになるが、寛人は僕の後ろで呼吸を整える美桜に満面の笑みを送ると、小さくガッツポーズして親指を立てた。
美桜が小さく頷き、それに応えたのを確認すると再び敵に視線を合わす。
まるで寛人との対戦を待ち侘びるように、ゴリアテは暫くその一部始終を見届けていたかに見えた。
「そうしましょう瞬、私たちは生命を継ぐ者よ。此処は寛人に任せて……」
僕のボロボロに破けた制服の裾を引っ張り、先を急ぐように促す美桜。
編み込んだ長く綺麗な髪は乱れ、制服とスカートも所どころ破けている。それは此処に至る迄の戦歴の凄まじさと行軍の過酷さを物語っていた。
綺麗に整ったせっかくの美貌に幾つかの擦り傷、涙ひとつ溢さない勝気な瞳に映る僕の姿を見て大きく息を吸い込んだ。ゆっくりそれを吐きながら心を整理し、全て吐き切ったと同時に決意を固めた。
そう……僕は生命を継ぐ者。目的を遂げる為に今、美桜と此処にいるんだ!
「わかったよ、寛人……死ぬなよ……?」
美桜の細くしなやかな手を取り、後ろ髪を引かれる思いで踵を返すと、寛人の淋しそうな声に呼び止められた。
「おい待て、瞬……。この世界でその台詞は、ちぃとばかし矛盾しとるんとちゃうか?」
そういつもの薄ら笑みを僕に向けるが、どうやら時間切れ。ゴリアテも長々と茶番には付き合いきれないみたいだ。
大槍の柄をドンッと地面に叩きつけ腰を低く身構え、今にも突進するぞと大きな足で何度も地面を蹴り上げた。それだけで地面がビリビリと揺れるようだ。
同時に寛人は剥き出しの感情を露わにして「アクロソーム!」と大声を上げる。
全身から放出されるエネルギーを金属バットに込めると、不思議な事にそれを緋色に光らせ巨漢の戦士の正面に向かい突っ込んで行った。
アクロソーム。
それはあの日、僕たちが懸命に覚えた技の名前だった……。
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