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僕と美桜それに数名の仲間は、この機を逃すまいと大槍を持たない左横に回り込み、大きく旋回して走り抜けようとするが、敵は簡単に見逃してはくれなかった。
正面から突っ込む寛人を狙うよりも多数を仕留めに来たのか、素早く横にステップを踏むとアッと言う間にゴリアテ自身の間合いを作り出す。
根こそぎ地面から薙ぎ払おうと低い姿勢のまま、太い左腕をラリアットみたく伸ばすだけで、先頭にいた数名の仲間が吹っ飛んだ。
「ダメだ! 避けきれないっ――」
目を瞑った瞬間!
雄叫びに近い悲鳴と肉がちぎれる鈍い音が重なり、同時に血の噴き出す音が聴覚を圧した。
「ヴグォガァァァァーッ!」
恐る恐る目を開く……。何が起きたのか状況を理解するのに時間は掛からなかった。
寛人の持つ金属バットから陽炎のように緋色の光が揺らめき、その一振りがゴリアテの左腕ごと吹き飛ばしていたのだ。
運よく助かったのは僕と美桜のふたりだけ、ギリギリのところで寛人の攻撃によって救われたのだった。
「おいデカいの、浮気はあきまへんで。お前の一対一の相手は俺やろ?」
余裕の表情で手の平を天に向け、クイクイッと二回手招きをして挑発する寛人。
「ちょっと待って……? 寛人ってこんなに強かったの?」
僕のその驚きの言葉より、ゴリアテの反撃の方が数秒早かった。
肘から先を失った左腕から血飛沫を上げながらも、介する事無く残った右腕で無茶苦茶に振り回した大槍が空気を斬って唸りを上げる。
その直後、軌道を読めない槍先が避け損ねた寛人の胸の辺りをかすめた。
油断した寛人の身体から、尋常じゃない量の血飛沫が上がる。
「おいっ、しっかりしろ! 寛人、大丈夫かっ?」
「ゴボッ……ブフォ」
口からも大量の吐血。傷は思ったより深そうだったが、引き返したところで手当する術もなく、逆にここで戻ると寛人の選択を台無しにしてしまう事になる。
ぐっと唇を噛んで拳を握るしかなかった。
「なに人の心配しとんねん……? どう見えとるか知らんけど……こう見えて結構、強運な部類ですわ……ゴフッ! そない簡単に死なへんから……さっさと行かんかい瞬っ! ……ゴホッ、ブッフォ」
朦朧として焦点の定まらない視線を、必死に合わそうとする寛人。その視線の先を追いかけ、最後にしっかり目が合った事を確認すると「頼む、無事でいてくれ」そう心で呟いた。
「瞬……急ぎましょう」
「はよっ!」
お互い膠着状態の隙をついた僕と美桜は、その声に追い立てられるよう必死にその場を走り去った。
いつも陽気だった寛人の面影を胸に焼き付け、一度も振り返る事なく――。
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