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◇◇◇
どれくらい走っただろう、目指していた城門に辿り着いた頃には、辺りは既に暗くなっていた。
しかし、あの距離からでさえも遠くに霞んで見えるくらいだから、相応の規模だろうと想像はしていたものの、この門の大きさに改めて驚いた。
今まで見た建造物の比にならない程の大きさだった。
首を真上に向けても門の上端を望む事は出来ず、代わりに視界に飛び込んで来たのはお尻のように丸く輝く満月。
確か……僕たちの目的の成功には月の満ち欠けが重要だって聞いた気がするが、煌々と光る月の美しさと闇夜のコントラストに、思わずあんぐりと大きな口を開けそんな事は忘れてしまっていた。
「月が綺麗だね……?」
「えぇ、そうね……。いつも私たちの見ていた月と何が違うのかしら?」
かつて有名な作家が愛の告白を「月が綺麗ですね」と訳したそうだ。
期待した回答とは言えないが、月以上に綺麗な横顔はそれに足るほど僕にとって満足なものだった。
暫くふたり黙って空を見上げた後、静かに首を下ろすと美桜が確信を込めて呟く。
「やっと、辿り着いたわね……」
すると突然、遠くから物音と話し声が近付いてくる。
静寂の闇の向こうから近衛兵と思われる兵士が、腰にぶら下げた装備をガチャガチャ鳴らしながら歩いて来るのがわかった。
咄嗟に人差し指を唇に押し当て周囲を見渡す。近くに適当な岩陰を見付けたので、急いで身を屈めてやり過ごす事にした。
「必ずこの辺りにいる筈だ! 見つけ出して息の根を止めろ!」
「はいっ、近衛兵長!」
「アイツら手こずらせやがって……。宮殿の中へなど行かせてなるものか!」
どうやら居場所を嗅ぎ付けた数名の近衛兵たちが、僕たちを始末しようと血眼で探し回っているようだ。
大きな扉の中を伺い知るまでも無く、周回する近衛兵の厳重そうな警備から此処が目指していた宮殿の入口だと察した。
辺りの暗さも相まって上手い具合に姿を隠す事が出来たが、疲労と緊張から溢れ出る喘ぐような息を殺して、念の為もう暫く様子を覗う事にした。
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