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――そして。
「どうやら行ったみたいだね?」
足音と気配が完全に去ったのを確認して、僕は美桜の手を取り立ち上がった。
「痛いっ!」
何処かで痛めた傷口に触れてしまったのか、反射的に手を引っ込める。
「ごめん、大丈夫か美桜? どっか傷が痛む?」
「ううん、平気よ。瞬こそ疲れてるんじゃない? この先何があるか分からないわ、もう少し休んでからでも良いわよ」
「僕も大丈夫だ。それより見回りのヤツらがいない今がチャンス。どうにかして壁の向こう側に……」
お互い大丈夫だと言うが幾多の戦いを経て、僕たちの身体は満身創痍とは言わずとも既に傷だらけだった。双方とも平気そうに見えない事に気付くと顔を見合わせ苦笑いする。
「きっとこの壁の向こうに卵子がいるのよ。問題はどうやって侵入するか……よね?」
「うん、余程大事なモノがあるんだろう。これだけ高い壁で囲む必要が他に無いだろうからね? おそらく此処が子宮の入口で間違い無い。けど、確かにどうやって……」
再び聳える城門を見上げ、ゆっくりと視線を落とし美桜と向き合う。
頭の先からツマ先まで舐めるように目で追うが、傷だらけの全身は痛々しい程だった。
「それにしても白血球のヤツ、味方だと心強いけど敵に回すとこんなに厄介だとは……」
「そうね、彼らからすれば私たちは、外敵以外の何者でも無いもの……」
しかし……こんな非常時でも男ってのは本当にダメな生き物で、そう話す美桜の破けた制服の隙間から覗く肌の白さと膨らみに、ついつい目が行って離れようとしない。
気付かれる前に頭を小刻みに振って、邪念を掻き消すように目を逸らした。
運よく美桜と子宮口まで辿り着き、卵子を見つける事が出来たなら……。
僕は心に決めていた事がある。まるで、その時が近づいているのを知らせるように、心臓が内側から痛いくらい激しく僕の胸を叩いた。
あの夏の日に教わった恋の力は、幾多の危機を乗り越えて少しだけ僕を強くさせてくれた気がする。
このあとは――。僕は小さく息を飲んだ。
辺りは終始薄暗いものの、満月の月明りで表情や情景くらいは確認出来るほどだった。
周りに敵の影が無い事を確認すると足早に門へと近付き、美桜と並んで扉にピタッと身体を寄せて姿を隠す
。
「それにしても大きな扉ね? 簡単に押したくらいじゃ開きそうに無いし、こう言うのって普通内側からカギが掛かって、何か合言葉でも言って開けて貰うんじゃないの?」
「合言葉ねぇ……。山ぁ、川ぁって具合に都合よく開いてくれたら良いけど、それにどうやって内側と連絡なんか取るんだよ? 大声出したらバレちゃうし、そもそも向こうからしたら僕たちは侵入者じゃないか」
試しに精一杯の力で扉を押してみるも鍵が掛かっているのか、それとも扉の重さなのか案の定ビクともしない。
「なぁ、美桜も一緒に体重を乗せて押してみてくれないか?」
「ちょっと何それ、失礼じゃない? まるで私が重たくて頼りになるみたいな言い方じゃないの! 謝りなさいよっ」
「い、いや……。ごめん、そんなつもりじゃ無いんだけど」
「まぁいいわ。それより瞬、このボタン何だと思う?」
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