24人が本棚に入れています
本棚に追加
ちょうど胸の位置くらいに埋め込まれた茶色のボタンを美桜が見つけた。
色が門と同じ土色だった為、同化して気が付かなかったが紛れも無くそれはボタンだった。
しかし……明らかに不自然で、明らかに怪しい。
「ねぇ、押してみましょ?」
「ねぇ、お願いだから止めてくれないかな? こんなところにあるボタンを押してロクな事が起きる筈が無い。普通に考えてそうだろ?」
罠としか言いようが無いし、仮に違ったとしても状況が好転する期待値は限りなく低い。
何かもっと確実性のある手段を考えるべきだ……が。
「ねぇ、押すわよ……。いい?」
「ねぇ、僕の話を聞いてた? いい訳ないだろ?」
「ポチッ」
「あっ! ええっ……? だから勝手に押すなって……」
僕が言うより早く、美桜の指によって押されたボタンの跳ね返りと同時に「ピンポーン」と呼び鈴に似た音が鳴る。
「イ、インターホン?」
扉の何処かにマイクとスピーカーが埋め込まれているのだろうか?
僕が慌てふためいていると、その扉から冷静な声で確かに「はい」と返事をする声が聞こえた。
ビックリして逃げ出そうとする美桜の袖口を掴んで捕まえる。
「ちょっと待て、それじゃあピンポンダッシュじゃないか!」
小さい頃イタズラでやったアレだ。
しかし、はいと返事をした声の主は意外にも女性だった。
声を殺し顔を見合わせ、様子を伺っていると再度壁から女性の声。
「はい、どのようなご用件でしょうか?」
不思議とその声は穏やかで敵意は感じられなかったが、不用意に話し掛ける訳にもいかない。
それもそうだろう、あちら側からすれば僕たちは侵入者に他ならない。誰かもわからぬ訪問者のせいで、更に警備を厳重にされては厄介だ。
かと言って、どのようなご用件ですかと聞かれて、何て答えれば良いのだろう?
最初のコメントを投稿しよう!