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お兄様は、その真っ黒な髪の毛を掻き上げながら、そうおっしゃった。
……婚約の、解消。お兄様は、私の本当の目的を知っていらっしゃるの?
「フライアってわかりやすいよね。というか、隠し事が根本的に下手なんだよ。王太子との関係が上手くいっていないことくらい、僕だって知ってたさ。……六人目の聖女に、入れ込んでいるんだろう?」
……どうして、それを。
私はそう思ってしまった。一人の女性に入れ込んでいるということは、先ほど説明した。でも、そのお相手が六人目の聖女、シンディ様だなんて一言も言っていない。
「大方、婚約を解消した後に必要だから、剣術や魔法の実技を学ぼうとしているんだよね。父様は誤魔化せても、僕のことは誤魔化せないよ」
お兄様はティーカップをテーブルの上に置かれると、ただ妖しく微笑まれた。その笑みが怖くて、私は手のひらをぎゅっと握りしめる。
私はどうやら年齢をどれだけ重ねても、経験を重ねても。お兄様には敵わないらしい。それを、今、実感した。
「……父様にはあまりフライアに近づくなって言われているんだけど……。ま、いいや。今回ばかりは、フライアのほうから近づいてくれたんだからね」
……お父様に近づくなって、言われている?
それって一体、どういうことで――……。
「あんまり余計なことをすると、フライアの人生の邪魔になってしまうからね。まぁ、動けなくなるよりはずっといいや」
そんなことをおっしゃったお兄様は、私のほうに近づいてこられた。そして、私のお隣に腰を下ろされる。一体、なんなのでしょうか……?
「うん、フライアはやっぱり可愛いね。さすがは僕の妹」
さらにはそんなことを口にされるお兄様。なんだか、いつもとご様子が違うのは気のせい……なの、でしょうか? いいえ、気のせいではありません。
「あ、じゃあ、こうしようよ。どうしてもフライアが剣術や魔法の実技を学びたいっていうんだったら――」
――僕のことも、フライアの計画に参加させてくれないかな?
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