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「でも、フライアのほうから近づいてきてくれたよね。僕はそれがすっごく嬉しいんだよ。だけど、ふたを開けてみれば中身はただの交渉。がっかりしちゃう」
「……では、なにがお望みだったのですか?」
「う~ん、はっきりと言えば、僕はもっとフライアとお話がしたい。それだけ」
それだけをおっしゃったお兄様は、そのままにっこりと笑われる。今度は、目も笑っているように見えた。
妖しい笑みじゃなくて、心の奥底からの笑みのよう。
「だからね、僕はフライアが王太子との婚約解消を目論野でいるんだったら、嬉々として協力するつもりだよ。……そして、それを許可してくれるのならば、剣術も魔法の実技も、学ぶことを許してあげるよ」
お兄様は、指で私の髪の毛を弄ばれる。
……もう、なにを隠しても取り繕っても無駄な気がしてしまった。
私のお兄様、ライナルト・ディールスという人物は、全てを見透かしている。
「……わかりました。確かに私は、イーノク様との婚約解消を目論んでおります。その計画にお兄様が協力してくださるということも、わかりました。私も、お兄様が味方になってくださるのならばとても心強いです。なので……」
「……うん、わかった。許可してあげる」
笑みを深められたお兄様は、あっさりと許可を下さった。
そして、私の髪の毛も離してくださる。ようやく、お兄様との時間が終わる。そう思って、私は油断していた。
「僕の可愛いフライア。キミは幸せにならないとダメだよ。じゃないと――僕は、許さない」
唐突に私の耳元で、お兄様がそう囁いた。
それはまるで、呪文のようだった。
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