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「うん、可愛い妹の訓練でも見学しようかなぁと思ってね。……キミが、フロイデン王国からの留学生だという、ブラッド・ルーベンスさまだね?」
「……えぇ、まぁ」
「初めまして。僕はフライアの兄の、ライナルト・ディールス。妹にむやみやたらに触れないように、監視させてもらうから」
お兄さまはそうおっしゃり、立ち上がってブラッドさまに近づかれました。
いや、むやみやたらに触れるって、なんですか? そう言いたかったけれど、お兄さまの目が笑っていないことに気が付いて、その言葉をごくりと呑み込む。
私の感覚だと、今、この場にはブリザードが吹き荒れているような感覚です。きっと、そう思うのはお二人が邪険な雰囲気でにらみ合っているからだと思います。
「……ブラッド・ルーベンスです」
対して、ブラッドさまはお兄さまに向かって淡々と名乗られる。
なんというか、この場が歪な空間になっているような。私には、そう思えてならない。
あの日以来、お兄さまは私にべたべたしてくるようになりました。それはもう……鬱陶しいくらいに。
なにかがあれば私と共に行動をしようとされたり、私と鉢合わせる回数が今までの数十倍くらいになりましたよ、えぇ。
「キミは強そうだねぇ。じゃあ、フライアのことは頼むよ。僕はそこに座って、見学しているから」
お兄さまはそれだけを伝えると、そのままベンチに戻られました。
……本当に、見学する気なのですね。
そう思いましたけれど、口には出しません。お兄さまは笑顔で私のほうを見つめてこられます。もう、そこに今までの関係性の面影はありませんでした。
少し嬉しいと思う半面……やはり、鬱陶しい。
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