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だけれど、私は確かに死んだはずなのだ。それを理解した時、一番に脳内に浮かび上がったのは「転生」したということだった。死んで別の人間に生まれ変わった。そう、思った。
でも、部屋の中をぐるりと見渡した時その可能性は消えた。何故ならば、今私がいる部屋は……私が結婚し王宮に行くまで住んでいた公爵家の実家だったから。
クリーム色の壁紙も、そんな壁紙の模様も。ふかふかのソファーと寝台も、煌びやかな鏡台やテーブルに椅子。それらすべてが、私が結婚するまで住んでいたお部屋の家具だったからである。
「おかしいわね……」
私はそう思って寝台から降りて姿見の前に立ってみる。もしかしたら……そう、思ったのだ。
「う、そ」
そして、そう零してしまった。だって、ありえるわけがないでしょう? 目が覚めたら……時が巻き戻っているなんて。そんな風に、考えられないことなのだ。
腰までのふわふわとした茶色の髪は、死ぬ前とは違って綺麗で手入れが行き届いていた。トパーズ色のたれ目は、まだキラキラと輝いていた。光を失い、目の下には常に隈を作っていた死ぬ前とは大違い。さらに言えば、今私が身に纏っているワンピースは……私が十五歳ぐらいの時まで着ていた、お気に入りのアメジスト色のものだった。
「……わ、私、生き返った……の?」
だから、そうつぶやいてしまってもおかしくはないと思う。この姿は、私が十四歳か十五歳ぐらいの時のものだろう。つまり、大方十年以上時が巻き戻っていることになる。死んだときは、確か二十五歳だったから。……っていうことは、私がまだ辛うじて幸せだった頃だろうか。うん、そうだ。きっとそうに決まっている。
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