ヤンデレ予備軍

11/17
前へ
/17ページ
次へ
 とてもではないが、今すぐには返せない。後日ならば可能だが、数日も関係を繋いでおくのはリスクを伴う。  ただの、通りすがりの、善人――甘い妄想に浸るほど桜子は愚かではない。  見返りを要求されるのが恐ろしい。 「どうして君が怒るの? 俺の金なのに」 「あとから返すからです」 「いらないよ。あれぐらい」  いよいよ怪しさと不気味さが頂点に達する。  十万円を容易く出せる、知り合ったばかりの女に。裏があるとしか思えない。 「ほら、行こう」  微笑むと、促すように肩を抱く手に力が込められた。加減をしているのか痛みはしないが、拒否を許さぬ空気。  桜子は唇を噛み締めて、渋々外へと出た。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加