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とてもではないが、今すぐには返せない。後日ならば可能だが、数日も関係を繋いでおくのはリスクを伴う。
ただの、通りすがりの、善人――甘い妄想に浸るほど桜子は愚かではない。
見返りを要求されるのが恐ろしい。
「どうして君が怒るの? 俺の金なのに」
「あとから返すからです」
「いらないよ。あれぐらい」
いよいよ怪しさと不気味さが頂点に達する。
十万円を容易く出せる、知り合ったばかりの女に。裏があるとしか思えない。
「ほら、行こう」
微笑むと、促すように肩を抱く手に力が込められた。加減をしているのか痛みはしないが、拒否を許さぬ空気。
桜子は唇を噛み締めて、渋々外へと出た。
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