ヤンデレ予備軍

5/17
前へ
/17ページ
次へ
 上から発言に、営業用の微笑みでお茶を濁す。怒りを表面に出さないようにするのだけは長けている。  社会人になり身についた特技は、役には立つが、使えば虚しくさせた。 「それとも、酔いたいとか」 「そうかもしれません」 「期待してもいいっすか」 「……はい?」 「酔う気ってのは、お持ち帰りとか」  随分と、発想豊かなお坊ちゃんですこと。  思わず嫌味が浮かんだ。外には溢さず飲み込めば、頬が引きつった。  自分も恋愛経験が豊富とは言い辛いが、そこまでぶっ飛んだ思考はしない。  その理論だと酒を飲む人間は、お持ち帰りを望んでいる。などという暴論になる。    そんな世界は御免である。  面倒な人に絡まれた現実に、ため息をつきそうになる。    すると隣に座った後輩の小指が、自分のそれに触れた。  目を向ければ、彼女が心配そうに様子を窺っており「ごめんなさい」と言外に伝えていた。  彼女も困っているらしく無視を決め込んだ顔で、口を一文字に結ぶ。    様子に気付かないのか、別の男は面白くもない話題を永遠と提供し続けていた。  
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加