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上から発言に、営業用の微笑みでお茶を濁す。怒りを表面に出さないようにするのだけは長けている。
社会人になり身についた特技は、役には立つが、使えば虚しくさせた。
「それとも、酔いたいとか」
「そうかもしれません」
「期待してもいいっすか」
「……はい?」
「酔う気ってのは、お持ち帰りとか」
随分と、発想豊かなお坊ちゃんですこと。
思わず嫌味が浮かんだ。外には溢さず飲み込めば、頬が引きつった。
自分も恋愛経験が豊富とは言い辛いが、そこまでぶっ飛んだ思考はしない。
その理論だと酒を飲む人間は、お持ち帰りを望んでいる。などという暴論になる。
そんな世界は御免である。
面倒な人に絡まれた現実に、ため息をつきそうになる。
すると隣に座った後輩の小指が、自分のそれに触れた。
目を向ければ、彼女が心配そうに様子を窺っており「ごめんなさい」と言外に伝えていた。
彼女も困っているらしく無視を決め込んだ顔で、口を一文字に結ぶ。
様子に気付かないのか、別の男は面白くもない話題を永遠と提供し続けていた。
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