ヤンデレ予備軍

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 軽薄。明るく振る舞ったそれに聞き覚えはなかった。だが耳によく馴染む。  自然と目を向ければ、背の高い男が桜子へ、手をひらひらとさせていた。まるで旧知の間柄であると言わんばかりに。  隣で立ち上がった後輩に目配せした。ぶんぶんと勢いよく首を横に振る。彼女の知り合いではないようである。   とはいえ、自分も身に覚えがない。人違いではないかと、見つめた。  艶やかな黒髪に赤のメッシュ。琥珀色をした瞳。日本人離れした容姿は、人形のように整っていた。 「さ、帰ろ? 心配したんだから」 「あなた、は」  桜子を遮り、得体の知れない男は近づく。迷うことなく肩を組み、頬同士がくっつく程に寄せられたと同時。 「話あわせて。帰らせてあげる」  男の唇が、桜子の耳に掠めた。  悲鳴を飲み込めば、愉快げに喉を鳴らす。どこか猫のような魅力を持つ男は、心底桜子の反応を楽しんでいるらしい。  小声で囁かれた言葉がなければ、即刻突き飛ばしていただろう。  正直、薄ら寒いものを感じた。あまりに人離れしている。態度も飄々としており、よりいっそう浮き世離れしていた。
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