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男の人と付き合ったことがないまま、歳だけとって気が付けば、もう三十路。
若い頃はキラキラの白タイツの王子様が迎えに来てくれると思ってたけれど、もうそんな王子様が現れることなんてないと気が付いた。
「お疲れ様でした。」
仕事が終わったら、まっすぐお家に帰る。
帰り道、カップルに遭遇すると微笑ましく思ってしまう。
私の恋愛のベクトルはどこかに行ってしまった。
壊れてしまったのかもしれない。
そんなことを思いながら、コンビニでビールと弁当とデザートにシュークリームを買った。
お家に着いたら、すぐにすることはノートパソコンを開いて動画サイトを見ること。
夕飯をとりながら、面白い動画と動物の動画を見つけることが楽しみになっている。
最近は、面白い動画を出してる人のグッズを買ってしまった。
どこにお金をかけているんだと思う。
何もない平凡な生活、このまま歳をとって行くと思ってた。
あの日が来るまでは。
「今日から一緒に仕事をすることになった上條伊月(かみじょう いつき)君。みんな、よろしく頼むよ。」
局長がそう紹介した男性は小柄で黒髪でスーツを着ていた。
「よろしくお願いします。」
丁寧にお辞儀した。
「的場(まとば)さん、教育係、頼むよ。上條君も分からないことは的場さんに聞いて。」
え?
私……?
初めての教育係、どうしよう。
しっかりしなきゃ。
「はい、分かりました。的場さん、よろしくお願いします。」
こっちを見て微笑んだ。
胸がドキンとした。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
頭を下げた。
何から教えればいいのだろう。
「的場さん、何をしたらいいですか?」
キョトンとした表情の上條君。
自分の時のこと思い出さなくちゃ。
「えっと、皆さんの名前と顔を覚えて下さい。」
「はい。他にはありませんか?」
「あと、ここが上條君のデスクです。」
そう言いながら上條君のデスクを指差した。
「はい。分かりました、他にはありませんか?」
えっと、他は……。
「給湯室はどこですか?」
上條君がキョトンとしたまま私を見た。
「あ、そうだった。お茶汲みね。」
「新人の仕事なので。教えて下さい。」
ニコッと笑った。
また心臓がドキッとした。
どうして上條君が笑うとドキッとするんだろう……。
「じゃあ、給湯室に行きましょう。」
「はい。」
二人で給湯室に向かった。
「お茶の入れ方は知ってますよね?」
「いいえ、知りません。だから、教えて下さいって。」
そう言って微笑んだ。
上條君、タメ口になった。
どうして……?
「これがお茶の葉が入ってて、湯飲みがここにあります。ヤカンがこれで」
「そんなのは見れば分かる。俺が聞きたいのは、お茶の入れ方。」
面倒くさそうな顔になって頭を掻く。
え?
上條君が完全にタメ口になった。
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