オレンジ☆チョコレート

「いや、なんでもないよ。」
「で、どうするの？」

ここは、お言葉に甘えるべき？
どうしよう……。

「早く決めて。」
上條君はガードレールに腰をかけて、ポケットからタバコの箱とライターを取り出して、一本、口に咥えて火をつけた。

え？上條君って喫煙者なの？

上條君が空に向かって大きく煙りを吐いた。
「何？人の顔をジロジロ見て。」
「上條君って、タバコを吸うんだね。」
「吸うよ。会社では吸わないけど。……それで答えは出たの？」

どうしよう……。

「決められないなら、コインで決める？」
上條君が口でタバコを挟みながら、財布から５００円玉を出した。

コインって……。
そんな簡単に決めちゃっていいの？
私は初めて男の人の家に行くってことで、ドギマギして頭がいっぱいなのに……。

「簡単に決めていいの？」
上條君を上目遣いで見た。
「何、その顔は。遅い燈が悪い。燈が当てたら俺の家に来るってことで。表と裏、どっち？」

確率は半分か……。

上條君はコインを上に投げて、掌でキャッチした。
「じゃあ………裏。」
上條君が掌をあけたら
「裏だね。じゃあ、俺の家に行くことに決まり。」
そう言うと、コインをポケットにしまって
「何もしないから、安心して。」

上條君の家に行くことになっちゃった……。
何もしないってどういうこと？

そう思っていると
「言ってる意味が分かってないって顔をしてるね。」
上條君はため息をつきながら、鞄からカップのような物を取り出して、蓋を開けてタバコの灰を落とした。

上條君の言ってる意味が分からない……。
分からないって言った方がいいのかな……。

勇気を出して
「正直に言うと、分からない。」
そう言うと上條君が蔑むような表情になって
「燈を見てて思ったんだけど、男と付き合ったことないでしょ？」

バレた。
男の人と付き合ったことがないことが………。
恥ずかしい。

恥ずかしくて下を向いたら
「何もしないって言うのは、体の関係を持ちませんよって意味。体の関係って意味は分かる？」
上條君の怠そうな声に胸がグサッと刺さった。

どうして胸がグサッとしたの？

「体の関係は……なんとなく。」
そう言うと上條君がタバコを吸ってブッと咳き込んだ。
「………その歳で、分からないの？」
怪訝そうな顔をした。

その歳って言われても、分からないものは分からないよ………。

「もしかして、男の家に行くのも、初めて？」

正直に言った方がいいよね。

「うん。」
そう言うと上條君はカップの中でタバコの火を消して
「だから、表情がぐるぐるしてたのか。」
小さい声で呟いた。

表情がぐるぐる？
そんなに分かりやすいのかな……。

「まぁいいや。こんな所に居てもしょうがないから。」
そう言うと上條君は歩きだした。
その後を無言のままついていく。

上條君に一番恥ずかしいことを知られてしまった。
ずっと王子様の存在を信じてたって言ったら、笑われるのかな……。