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「頭悪いの?」
怪訝そうな顔でシンクに腰をかけた。
上條君って二重人格?
「下の名前なんて言うの?」
呆れたようにネクタイをゆるめた。
なぜ下の名前……?
「燈(あかり)だけど……。」
「燈が教育係なんて不安でしかないんだけど。ちゃんとして。」
ハァーとため息をついた。
上條君にそんなこと言われるなんて……。
しかも呼び捨てにされてるし。
「ごめんなさいね、教育係をやるの初めてなものだから。」
仕方なく頭を下げると上條君は腕組みをして
「燈の場合、初めてとか関係ないね。早く教えて。」
それが人に教えてもらう態度?
「わかった。これはこうして、こうしたらこうして、こうして出来上がり。」
「出来上がりって、お茶を入れただけでしょ。」
プッと上條君が笑った。
何がそんなにおかしいの。
そのお茶の入れ方が分からないって言うから教えたのに。
感謝もされない。
上條君はネクタイをしめ直すと
「じゃ、お茶出してくる。」
おぼんを持って給湯室を出て行った。
そのお茶は私が入れたんだけどね……。
戻ると上條君はにこやかにお茶を出していた。
その姿にさっきの態度が嘘のようだった。
私のデスクにもお茶を置いて
「的場さんもどうぞ。」
ニコッと笑った。
心臓がドキッとする。
どうしてドキッとするの……?
「お茶汲み、終りました。次の仕事を下さい。」
上條君が私の傍にきた。
「えっと、じゃあ、保管庫の書類、片づけてもらえますか?」
「はい、分かりました。」
上條君の返事を聞いて自分の仕事をしていると
「的場さん、保管庫の場所が分からないので、教えてもらえませんか?」
上條君は微笑んだ。
またドキッとする。
どうしてこんなにドキッとするの。
自分が嫌になる。
「ここが保管庫です。」
二人で保管庫の前に立った。
「燈って、俺の顔がタイプでしょ?」
上條君はワイシャツの袖のボタンを外して腕捲りをした。
え?急に何を言っているの?
上條君って俺様なの?
「燈、分かりやすいもん。この笑顔に弱いでしょ。」
そう言ってニコッとした。
またドキッとする。
「そう、その顔。」
上條君に顔を指差された。
「分かりやすすぎ。」
ニヤリと笑った。
分かりやすいって言われても……。
そんなつもりないのに。
体が勝手にドキドキしてるだけ。
「それはいいから、仕事しましょう。」
そう言いながらドアを開けた。
「良くないでしょ。」
上條君がドアに手をついて
「先輩と後輩の関係でアレになったら。」
ニヤと笑った。
アレって何?
上條君が言ってる意味が分からなくて、気にせずに保管庫の中に入った。
「間違いが起きたとしても、そっちが誘ってきたんだから。」
「訳の分からないこと言ってないで、仕事しよ。」
奥にあるテーブルの上にある大量のファイルを指差した。
「このファイルを片付けて欲しいの。日付けをしっかり確認してね。」
「ちょっと待って、俺が言ってること、本当に分からないの?」
怪訝そうな表情で私を見た。
ん?なんでそんな目で見てくるの?
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