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「待って。もう帰るの?」
上條君が立ったまま不機嫌な表情で私を見る。
「帰るよ。お茶、飲んだし。」
そんな顔で帰られるのは嫌だな……。
「動画、見ていかない?」
咄嗟に出た、どうでもいいこと。
上條君は怠そうな表情で頭を掻いて
「なんで?」
「面白い動画、見ない?」
そう言いながら、スマホを弄ってると
「…………こないだより面白いの?」
ため息混じりの上條君を見上げて
「うーん、多分。」
そう言うと、怠そうに胡座をかいて座った。
座ってくれた。
笑顔になる動画、見つけなきゃ。
動物の動画を探していると
「燈は動物が好きなの?」
上條君はスマホを取り出して、操作をし始めた。
「うん。」
そう言うと、上條君がスマホを見せてきた。
「この写真のキリン、面白くない?」
キリンの鼻のドアップの写真を上條君が見せてきた。
アハハハハと笑って
「面白いね。」
と言うと、上條君の口角が少し上がって
「燈のは?」
「ちょっと待ってて。」
急がなきゃ。
これにしようかな…。
犬の動画の再生ボタンを押して、スマホを上條君に渡した。
上條君はテーブルに肘をついて、スマホを見ていると、プッと笑った。
あ、笑った。
良かった。
「面白い?」
上條君を見ると
「何、その嬉しそうな顔は?」
怪訝そうな顔で私を見た。
「そう?」
上條君が笑ってくれて嬉しい。
だけど、恥ずかしくて言えない。
「うん。なんで嬉しいのか気になる。」
上條君が私にスマホを返してきた。
「気にならないで。」
恥ずかしくて目線を外したら、上條君が私の手首を引っ張って
「気になるもんは気になる。言って。」
また上條君に手首を捕まれちゃった……。
言うの恥ずかしいな……。
恥ずかしくて俯くと
「燈の気持ち、ちゃんと言って。」
「……上條君が…笑ってくれたから、嬉しくて…。」
そう言うと、上條君が私の手首を自分の方にもっと引っ張って体勢が崩れた。
「顔、あげて。」
え?
顔をあげるの?
言われた通りに、顔をあげると目の前に上條君の顔があって、心臓がドキッとなった。
恥ずかしさから目線を外すと
「燈、俺の目を見て。」
恥ずかしいよ……。
心臓が持たないよ……。
そう思って目を見れないでいると、上條君の鼻先が私の鼻先に触れたかと思ったら、おでこに、ほっぺたに、鼻先に、上條君の唇が触れた。
何が起きたの?
今のは何?
恥ずかしすぎるよ……。
そう思ってると
「目、閉じて。」
上條君に言われるがまま目を閉じると、瞼に何かが触れた。
これも上條君の唇?
もう片方の瞼にも触れて
「燈のその顔、止まらなくなる……。」
止まらなくなる…?
私、どんな顔をしてるの…?
目を開けると、上條君は私の手首から手を握って、手の甲に唇で触れた。
え?
これって王子様がお姫様にする行為……。
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