オレンジ☆チョコレート

8/41
前へ
/41ページ
次へ
「シュレッダーかけ終わりました。」 上條君が戻ってきた。 「ありがとうございました。次はこの10枚の資料を100部ずつコピーして、この資料を1枚ずつ取って、まとめてホチキスで角をとめて下さい。」 プリントを渡すと 「分かりました。ホチキスはどこにありますか?」 上條君がニコッと笑った。 笑顔に負けてはいけない。 しっかりしなきゃ。 「そこの棚の上から3番目の引き出しにあります。」 棚を指で指した。 「分かりました。的場さん、何時頃までに仕上げたらいいですか?」 「出来たら4時までにお願いします。」 「分かりました、頑張ります。」 そう言って上條君はニコッと笑った。 これで上條君の笑顔攻撃から逃れられる。 3時になってお茶の時間になった。 「上條君、お茶の時間になったのでお願いします。」 「はい。」 給湯室に行こうとする上條君に 「給湯室に行く前に、デスクに湯飲みがある人がいるか見て下さい。湯飲みがあったら下げて給湯室で洗って下さい。」 「はい、分かりました。」 上條君はニコッと笑って、一人一人のデスクを回って給湯室に行った。 おぼんにお茶を乗せて戻ってくると、朝と同じように、にこやかにお茶を出す。 私のデスクにもお茶を出しに来た。 「的場さん、どうぞ。」 私の顔を覗き込んでニコッと笑う。 また覗き込んできた。 あの顔にしようとしてる…。 油断しちゃダメ。 「ありがとうございます。」 そう言うと 「的場さん。」 上條君がポケットから小さく畳まれた紙を渡してきた。 なんだろう……。 紙を広げると『さっき反則したから、お仕置きしないとね。』と書かれていた。 お仕置き? お仕置きって何? 訳が分からなくて上條君を見ると 「どうしたんですか?」 キョトンとした表情で 「的場さん、あとで教えてもらいたいことがあるので、時間いいですか?」 教えてもらいたいこと? さっきもそう言ってたけど、仕事の話は無かったじゃない。 何を考えているの。 「さっきの仕事が終わってからなら、いいですよ。」 「分かりました。ありがとうございます。」 軽く会釈してニコッと笑った。 笑顔に耐えなくちゃ。 でも上條君からありがとうって言われると、嬉しいな。 そう思っていると上條君が不思議そうな顔をした。 上條君はおぼんを私のデスクに置くと、上條君から貰ったメモ紙を私から取った。 なんだろう。 「的場さん、これ、分からないので教えてもらいたいんですが……。」 そう言いながら上條君は私のデスクを見てボールペンを持つと、何かを書き始めた。 「これはどうしたらいいんですか?」 書き終わると紙を人差し指で指した。 そこには『ありがとうって言われると嬉しいの?建て前なのに。』と書かれていた。 上條君の顔を見たら、微笑んで 「的場さん、教えて下さい。」 そう言うと、上條君が文字の下の空いているスペースを指で指した。 書けってこと? それにしても上條君の二重人格すごいな……。 上條君からボールペンを渡された。 『建て前でも嬉しかった。』 そう書くと、上條君がボールペンを取って 「これはそうすれば良いんですね。分かりました。」 そう言いながら書いて、紙を指で指した。 そこには『単純。』と書かれていた。 単純って……ただ嬉しかっただけなのに。 私って単純なのかな。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加