雨が上がるまで

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 初めて彼と言葉を交わしたのは、7月初旬。  見上げた空にモクモクと黒い雲が沸き上がり、ポタンと涙のように頬に落ちてきた大きな雨粒。  次第にそれは勢いを増し、アスファルトを真っ黒に染め上げながら私の背中を追うように範囲を広げだす。  ようやく見つけた雨宿り先は、もう使われなくなっていた小さなバスの停留所。  このルートの路線は先月無くなったからだ。  狭いその中で、先客が止まぬ雨空を見上げていたけれど。  私に気づくと、その人は陣取っていた真ん中から右へとずれ、スペースを分けてくれる。 「ありがとうございます」  私の声に、一瞬だけこちらを見るとペコリと頭を下げた。  ぶっきらぼうだけど、嫌な感じはしない。  チラリと見上げた端正な横顔に一瞬ドギマギしながらも、濡れた制服をハンカチで拭く。  この辺りでは唯一の男子校の制服だ。  うちの学校とは真逆の方角にある高校。  帰り道だろう、何度かすれ違ったことがあった。  ……、眼鏡男子、かっこいいな、なんて見惚れていた人だ。  並んで見上げた空には積乱雲。  雲の中でビカビカと派手に光だし、ヒッと息を飲んだ瞬間、彼と目が合ってしまった。
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