28人が本棚に入れています
本棚に追加
「嫌だよね、雷」
怯えた私に気づいただろう彼が同意するように苦笑した。
「ですよね」
肩をすくめて苦笑した私に彼は微笑んだ。
それきり会話はなくなって、雨は少しずつ小降りになって。
「虹、だ」
私の呟きに被るように切られたシャッター音。
彼もまた虹を見上げて写真を撮っていた。
夕立に終りを告げる陽ざしが夕日とともに街をピンク色に染めていく。
彼はその中を一歩踏み出した。
「あ、あのっ」
「え?」
声をかけたはいいものの、気の利いた台詞が浮かばない。
振り返った彼は何も言えずにいる私を黙って見つめていて。
「気を付けて」
「はい?!」
「気を付けて帰ってね、もう降らないとは思うけど」
と、さっき初めて挨拶を交わした時みたいにペコリと頭を下げ背中を向け歩き出していく。
何だか嬉しくなって、ありがとうございます、と無駄に大きな声をかけたけれど彼はもう振り向いてはくれなかった。
虹と夕日に混ざり合って溶けていくみたいな彼の背中が見えなくなるまで。
私はその場に立ち尽くしていた。
とっても、とってもドキドキしながら。
最初のコメントを投稿しよう!