1:回復してもらうためには怪我をしなくちゃだめだよね

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1:回復してもらうためには怪我をしなくちゃだめだよね

「思ったよりもすぐに見つかってよかったですね、勇者様!」 「……ああ、そうだな」 すがすがしい笑顔をこちらに向けながら前を歩いているのは、我がパーティ――と言っても俺と彼女の二人だけだが――の回復担当のひらりん(本名)である。 薬草探しの依頼をあっさりと達成し、明るく歩調を弾ませながら歩く彼女とは対照的に、俺の気分はこの「魔の森」にただようジメジメとした空気と同じくらい陰鬱なものだった。 「はぁ……」 「あの、勇者様。何か気になることでも?」 帰る段になってから何度目になるか分からないため息を漏らす。さすがに異常を察知したのか、足を止めたひらりんが戸惑うような顔を浮かべた。 彼女の困惑はもっともである。依頼が上手くいっていないならともかく、あっさりと達成できたのならば喜ぶことすらあれども、落ち込むようなことは何一つないはずなのだ。 普通、魔の森の奥地へ入り込むとなったら、魔物との戦闘は必至である。だというのに、今回は珍しく魔物の一匹にすら接敵することなく、実にすんなりと依頼目標の薬草を手に入れることができてしまった。 そのため今日は一回も戦闘を行っておらず、戦闘担当の俺は傷一つ負っていない。それはつまり、回復担当のひらりんもまた、何一つすることが無いということだ。 実は、俺の不満に思っていることはそこにある。 「いや……すまない。何でもないんだ」 しかし、ひらりんに余計な心配をさせてまうのは本意ではない俺は、曖昧な言葉でごまかす。 ひらりんの方はと言うと、未だ疑念が残っている風ではありつつも、「そうですか?」と一応は納得してくれたようであった。 いけない、いけない。俺が不満に思っている本当の理由は、絶対に彼女にバレるわけにはいかないのだ。 反省した俺は大きくかぶりを振ると、わざとらしく声の調子を明るくして話題を変える。 「今日は早く帰れそうだし、屋台の方にでも行ってみるか。何かおいしいものでも食べよう」 「やったあ! あの、私食べてみたかったものがあって……」 体をこちらに向け、手をぶんぶんと振って喜びを表現する彼女の姿が実に微笑ましい。 だが、そんな光景のすぐ背後から迫っていた凶刃により、状況は急展開をむかえることとなる。 「危ない!!」 「え!?」 俺は反射的に駆け込んで、ひらりんと凶刃の間へと割り込むように剣を立てた。何とかひらりんが貫かれるのを阻止することが出来たが、逸れた刃の先が俺の右ほおを掠めていった。 斬られた部分に痛みが走る。たらりと頬に血が垂れるのを感じた。 傷。怪我だ。 おおおおおお! 怪我をしたぞ、俺は!!
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