船長の悪夢

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 黒い影がごそごそ動いていた。姿かたちからして、宇宙ゴキブリじゃなさそうだ。……こりゃあひょっとしたら、リーマの野郎のいうとおり、宇宙ネズミかもしれねえ。あの獰猛なでっけえ前歯で積荷をかじられたとあっちゃ、たまったもんじゃねえ。  おれはリーマの野郎に火炎放射銃の準備をしろと指示した。野郎はおっかなびっくりといったふうだったが、種火を点すと銃のさきっぽを前にむけた。 「……いいか、いつでもぶっ放す準備をしとけ」おれは暗がりに(うごめ)くものに、懐中電灯の明かりをむけた。 「ありゃ? まあ!」リーマが頓狂な声をあげた。「こりゃまた!? 豚だ!」  なんとそこには豚がいた。だが地球にいるような豚じゃねえ。体全体が黒く、背中に白いシーツを一枚引っかけたような色味の豚だ。 「積荷にこんなものがあったですかね?」リーマがきいてきた。 「あるわけねえだろうがよ! うちは生き物、なま物は運ばねえ。地球に着くまえに腐っちまうだろうが」 「どこから迷いこんできたんだろう?」と、リスターが豚の野郎に触手を伸ばしていると、豚の舌が、奴の触手のさきっぽをペロっと舐めた。「うひゃ! くすぐったい!」  みると豚はリスターの体に(デコ)を擦りつけて、あまえたような仕草をしてやがる。 「なんだか……可愛いなあ……この豚ちゃん」とリスターの野郎は目を細めていた。 「――これをみてください」ブシェーミが宇宙インターネットをみていやがった。「こいつは豚じゃない。架空の生き物。バクっていう生き物ですよ」  おれはブシェーミの頭を懐中電灯でぶっ叩いた。「ばかやろう! 架空の生き物が目の前にいたんじゃ架空の生き物じゃねえじゃねえか」 「しかし船長、ここに載っている想像図と同じ姿をしてますよ」ブシェーミの野郎が画面を指さした。  たしかに、ここにいる豚とそっくりだ。「……こいつはいったい?」
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