船長の悪夢

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 貨物デッキになにかいやがる(﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅)といいだしたのはリスターだった。おれは、ひと眠りするのにコールドスリープマシンにちょうど片足をつっこんだところで、またぞろなにか厄介事(トラブル)でも起こったかい。 今回の宇宙長距離便、アンドロメダ星雲の復路では、まずまずの集荷ができたと満足のいく量の荷物が船に積んである。おれの船、一番星号に、なにがはいり込んだかしらねえが、積荷になんかあっちゃえれえこった。おれはコールドスリープマシンで眠っているリーマとブシェーミの野郎を叩き起こすと、連れだって貨物デッキにむかった。 「きっと奴らがはいり込んだんだ」リスターが八本の触手にそれぞれ得物をぶら下げて、"どんな大物でもイチコロ"と宇宙製薬会社も太鼓判をおす、ゴキブリ用殺虫スプレーをしゃかしゃか振って息まいていやがる。 「宇宙ゴキブリはこのあたりにはいねえぜ。きっと宇宙ネズミがはいり込んだんだ」とリーマがリスターをおちょくるみてえに首を伸び縮みさせて「だったら、こいつが必要だぜ」と手に持った火炎放射銃を振りまわしやがった。 「やい! そんな物騒な物しまわねえか!」おれはリーマをどやしつけた。「貨物デッキに火気は厳禁だ。おれの船をタイタニック号みてえに燃やしてえのか!」 「……タイタニック号は沈没したんですよ」  と、ブシェーミの野郎がいった。灰色で頭でっかちな顔と異様にでっかいその黒目であいかわらず賢ぶった口調が気にいらねえ。 「どっちでもいい!」おれはブシェーミに怒鳴り返した。 「宇宙幽霊でもみたんじゃねえのか?」とリーマの野郎がこんどはそっ首をくるくる回してやがる。 「幽霊なんかみちゃいねえ!」リスターがわめいた。 「うるせい! てめえらちったぁ静かにせい!」  おれは懐中電灯でリスターとリーマの頭をどやしつけた。はずみで懐中電灯の明かりが点いた。ーーと、懐中電灯の明かりが照らしている先は、貨物デッキの扉だった。  おれは貨物デッキの扉を開けた。 「どのあたりでみたんだ?」おれは暗がりのなかの積荷のあいだに懐中電灯をむけて、あごをしゃくった。 「いっちゃん奥のほうでさ……」
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