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「昔って、小学校入るまえのことでしょう。いいからさあ、脱衣室行ってよ」
「わかった、わかった」
流斗は自分のバックパックから服を取り出すと脱衣室へと向かった。
何で変えの服を持ち歩いているの?
私はコーラを口に入れて飲み干した。
ドキッとした。
"何で明英大を選んだ?"って聞かれて、胸が高鳴った。
だって答えられない不純な動機で選んだのだから、だけど私にはどうしても明英大学である必要があった。それは両親でも、流斗でも、誰であっても理解できないと思う。何故なら私自身も未だに理解出来ていない。
"何で明英大を選んだ?"
初めてその人を見たのはスマートフォンの画面の中だった。
高校二年の秋、おすすめ記事で表示されていたのは全く興味のない分野の記事だった。
"幽体離脱の正体とは"
私は目を離すことができなかった。
その記事の内容にじゃない、そこに写っているグレーストライプ柄のスーツを着た男の人から目が離せなくなった。
年は大分上の大人。
会ったことはないけど、憧れの俳優とか好きな歌手とかの感覚とは違う。
ただ、ただ上ノ宮侑李という人が恋しかった。
「詩音、おまえも風呂入って来たら?」
浴室にいるはずの流斗から声をかけられて、肩がビクッとした。
振り向くと、ネイビーのTシャツに黒の短パンを着た流斗が立っている。頭はびしょ濡れのままだ。
流斗の前髪の先から水滴が頬を伝い、白い首元に落ちて行く。
思わず見入ってしまった。
不覚だ。
私は思いっきり目線を宙に泳がせて、流斗に訊く。
「タオルもう一枚貸そうか?」
流斗は黙り込んだまま顔を私に近づけて来た。
流斗は悔しいくらいに綺麗な顔をしている。
「詩音、なに、俺に見惚れてるんだよ」
流斗はいつもより低い声で言う。
「別に見惚れてないよ」
何故か敗者の気分になり、私は目を逸らす。
「えー、いやいや、今絶対"流斗本当にイケメンなんだから"って思ってただろう」
流斗は笑いながら冷蔵庫からビールを取り出す。
今日、何本目よ?
私の怪訝な顔を他所に流斗はビール缶のプルタブを開ける。
すると、軽快な音楽がテーブルの振動と共に鳴り出した。
テーブルの上を見ると、流斗のスマートフォンに着信画面が表示されている。
私はその名前を見て、驚いた。
"三奈木由里"
心理学の講師。
どうして、流斗の電話に着信があるの?
「流斗、電話出ないの?」
流斗を見ると、ビール缶片手にスマートフォンに目を向けている。
「ああ、そうだな」
流斗はテーブルの上に置いてあるスマートフォンに手を伸ばすと、持ち上げ、私の目を見た。
何?
スマートフォンの画面に触れると、軽快な音楽が途切れた。
音楽の鳴り止んだスマートフォンはそのまま流斗の短パンのポケットに納められた。
「何で電話切ったの?」
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