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「用がないなら、もう家入るから」
もう一度私に背を向け、流斗は自分の家の門を開けた。
「流斗」
私は叫んだ。
「何かあった?」
私の声に流斗は足元を止め、私に顔を向ける。泣いていないのに、私には泣いているように見える。
「何でだ?」
「えっ?」
「何で、なんかあったと思うんだ?」
流斗は開いた門を閉じ、私に近づいて来た。
「どうして、そう思う?」
いつの間にか流斗は私より背が高くなった流斗に見下ろされる形は少し居心地が悪い。
私は顔を向けて、流斗と目を合わせる。
「泣いてたんじゃないの?」
「ハッハ、何だよそれ。何で俺が泣かないといけないの?」
流斗はワザと私を馬鹿にしているような口調で話した。
だけどそれが私には一層悲しそうに見えて、思わず流斗を抱きしめた。
「な、何だよ詩音」
流斗は嫌そうに言うけど、私の手を解こうとはしていない。
「ハッハ、本当何でわかるんだよ」
流斗は涙声で言うと、私の背中に手を回した。
「じゃあ、悪いけど肩借りるぞ」
私の肩に顔を埋めた。
「どうしたの?」
「さっきさあ、家に帰って来たら、知らない男が玄関に立ってたんだ。親父よりずっと若い男」
「えっ?男の人?」
「それで家の奥から若い女向けの服を着た母さんが出て来たんだ。両手に旅行バッグを持ってさ。信じられないだろう?」
流斗は腕に力を入れて、より強く私を抱きしめた。
「俺が"こいつ誰なんだ?どこに行くんだ?"って問い詰めたらさあ、"ごめんね流斗"ってだけ言って出て行った。あれってさあ、つまりそういうことだよな」
信じられなかった、流斗のお母さんは私の母と違って物静かでどこか気品がある人だった。
だけど、久しぶりに見た流斗の涙が嘘ではないと示している。
そしてこの涙が私が見た流斗の最後の涙。
「詩音、愛してる」
思い出にないはずの言葉が夢に出てきた。
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