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慌しく上ノ宮教授のゼミ室のドアを開けると、中に居た数名が視線を向けて来た。
その中には黒木くんと田島くんの姿もあった。
「詩音、遅かったな」
ドア横から聞き慣れた声がして振り向くと、流斗が立っていた。
「なん……でいるの?」
流斗は上ノ宮教授の講義は取っていない。
「夏季特別講義は誰でも参加できるらしい」
「そうなんだ……」
誰でも参加できるからって何で参加してるの?昨日だって田島くんとは雰囲気最悪だったし……愛菜が参加するから?
流斗の事は長年知っているはずなのに、時々何を考えているのかわからなくなる。
「上ノ宮教授、パンフレットはこちらで大丈夫ですか?」
黒髪ロングヘアの綺麗な女性が上ノ宮教授に冊子の束を渡している。
流斗の参加目的は直ぐにわかった。
三奈木先生。
「ありがとう、三奈木さん」
上ノ宮教授に確認を取った三奈木先生はゼミ室の中央に置いてある長机に冊子の束を置いた。
「三奈木先生、僕達手伝いますよ」
前髪で目が隠れている背が低めの男子学生と小太りの男子学生が三奈木先生に近づいた。
二人とも顔が少し赤く、美人を前にして緊張しているようだ。
「ありがとう、でも大丈夫よ。流斗くん、ちょっと手伝って」
三奈木先生は自分に好意がありそうな男子学生を軽く遇らうと、流斗を猫撫で声で呼んだ。
流斗を見ると、一瞬こちらに目を向けて、無表情のまま三奈木先生の側に寄って、彼女を手伝い始めた。
「流石だな、あのせんせい」
田島くんが愛菜の隣でニヤけながら言う。
「なにあれ?三奈木先生ってああいう人なの?」
愛菜は怒りながら話す。その声が大きめで、三奈木先生の耳にも届きそうな程だ。
「愛菜、声大きいよ」
「だって、詩音も今の見たでしょう?なに流斗くんって、何で下の名前で呼んでるのよ」
愛菜は大分イライラしているようだ。
「何でって、あの二人付き合ってるって愛菜が言ってたよね?」
しかも、妊娠してるって……
「あれは噂でしょう?まさか本当に付き合っているの?詩音、何か皆神くんから聞いてない?」
昨夜、流斗のスマートフォンに三奈木先生から着信があったなんて言ったら、余計に愛菜はイライラするだろう。しかも三奈木先生の話をしようとしたら流斗が不機嫌になったなんて言ったら、愛菜のイライラは爆発。
「噂が本当かは知らんけど、三奈木が皆神流斗を狙っているのは間違いないだろう」
田島はまた嫌味そうに笑いながら愛菜に言う。まるで面白がっているかのようだ。
「でも、三奈木先生って結婚してるんじゃないの?そういうのを全部気にしない人なの?」
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