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「はは、愛菜ちゃん怒り過ぎ。何、愛菜ちゃんアイツに気があるの?」
田島くんは愛菜に更に一歩近づいて訊く。
だけど、愛菜は田島くんの質問には答えないで黙っている。
「まあ、でも三奈木は今独身だよな、慎也」
田島くんは黒木くんの方に顔を向けて、同意を求める。
「うん、そうだね。今は独身だよ」
「えっ、そうなの?じゃあ不倫じゃないの?」
愛菜と黒木くんの話は愛菜の横に立っている私の耳にもちゃんと届いていて、昨日の夜流斗が既婚者と付き合っていると勘違いして、流斗に少しイラついてしまった自分を後悔している……
だけど、愛菜達の話よりも私は他のことが気になってしょうがない。
上ノ宮教授がさっきから私を見ていて、私も上ノ宮教授から目が離せないでいる。周りも白くぼやけていて、愛菜が田島くんや黒木くんと話している空間も、流斗が三奈木先生と準備をしている空間も別世界に感じられる。
この世界には私と上ノ宮教授の二人だけが存在していて、私達はここではない別の空間?空気が澄んでいて、木々に囲まれた静かな場所?にいる。
「……さん」
月夜?
「……つくしまさん」
「厳島さん!」
名前を呼ばれて我に帰ると、目の前にはいつの間にか黒木くんが立っている。
「厳島さん、大丈夫?心ここに在らずみたいな顔をしていたけど」
「あっ、ごめん」
黒木くんに謝っていると視線を感じた。その方向に目を向けると、流斗がこちらを怪訝そうに見ている。
「厳島さんも参加してくれて、本当に嬉しいよ」
私は黒木くんに目を向ける。黒木くんの言葉は何か勘違いしてしまいそうだ。まさか私を口説いているなんてこと……あるわけないっか。
「でも、三奈木がアイツを狙っているのは間違いないぜ」
田島くんと愛菜はまだ流斗と三奈木先生の噂話を続けているようだ。
「何でそんな事が田島くんにわかるのよ?」
「だから、愛菜ちゃんさあ、俺の事は"豪"って呼んでってさっきから言ってるだろ?」
田島くんはあからさまに愛菜に言い寄っている。それは明らかに黒木くんとは違う。
「じゃあさあ、"豪"、何で三奈木先生は皆神くんを狙っているってわかるの?」
愛菜は面倒臭そうに"豪"で改めて同じ質問をした。
「ああいう顔が三奈木の好みなんだよ。なあ黒木?」
黒木くんは田島くんに話を振られて不快な表情をした。
「ああいう顔?」
田島くんは愛菜の質問にまた嫌みたらしくニヤニヤする。
「あの人はああいう色白の美少年が好みなんだと」
「なにそれ」
愛菜は気持ち悪そうな表情をする。
「なあ、気持ち悪いだろ?」
気持ち悪いのはアンタだよ"田島豪"と心の中で思ったけど、口には出さなかった。
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